琵琶湖病院『聴覚障害者の受療における医療機関側の対応の実態調査』
2016年 01月 20日
PDF『聴覚障害者の受療における医療機関側の対応の実態調査』
上野裕美 瀬戸瑠里子 仲宗根ありさ 林香里 牧野綾
http://www.shiga-med.ac.jp/~hqpreve/kyouiku/socmed_fw/pdf/2001/2004_3.pdf
2000年頃の資料のようだ。
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聴覚障害者の受療における医療機関側の対応の実態調査 上野裕美 瀬戸瑠里子 仲宗根ありさ 林香里 牧野綾
http://www.shiga-med.ac.jp/~hqpreve/kyouiku/socmed_fw/pdf/2001/2004_3.pdf
• 琵琶湖病院への訪問 琵琶湖病院は大津市坂本にあり、本学の医学概論で「聴覚障害者」についての講義をして頂いた藤田 保先生が勤務されている。藤田先生は 29 歳の時に聴覚を失われ、現在手話や筆談を使って診療されている。藤田先生が中心となって琵琶湖病院には 1993 年 4 月に聴覚障害者専門外来が開設され、専任の手話通訳者を配置するのではなく、それぞれのスタッフが患者のコミュニケーション手段に合わせた対応をされている。開設以来、近畿を中心として全国各地から聴覚障害者の来院があるそうだ。
琵琶湖病院で行われている工夫
・受付に筆談に使う「かきポン君」や順番を知らせるための「合図君」がある
・FAX での受付・対応がなされている ・館内の案内表示は視覚的にわかりやすいものが設置されている
・診察では、先生が手話を使われるので患者さんは安心して診察を受けることができる。
・脳波検査では目をつぶってしまうと手話が見えなくなるのであらかじめ「肩を叩いたら目を開いても いいですよ」などの合図を決めておき、検査中の指示はその合図で行われている。
・X 線や CT の撮影では同じ部屋に入って直接合図することができないので、光による合図または窓ガラス越しに指示を書いた紙を提示して合図している。
藤田保先生の琵琶湖病院の例は、聴覚障害者の間では有名だ。しかし、どんなタイプの医療機関なのかは、やはり実際に行って体験した聴覚障害者でないとわからないと思う。一般の病院と比べて、聴覚障害者受診に対し、何らかの工夫がされていることは間違いなさそうだ。
聴覚障害者・手話通訳者・要約筆記者から、医療機関側への要望
受付・会計時
・ FAX 番号を周知してほしい。
・ 来院前に FAX をするときは、あらかじめ先生が知りたい情報を書けるように専用の用紙など があるといい
・ FAX にはすぐに返事をしてほしい。
・ 会計の窓口をわかりやすくしてほしい。
・ 受付の順番は、番号を提示するほうがわかりやすいが、番号が止まったままのことがある。
・ 合図君(振動式の呼び出し器)があるほうが安心。
診察時
・ マスクをつけたまま話す医者の言うことはわからない。
・ 診察では、カルテばかり書いていないで、患者の顔を見てほしい。
・ 医師の説明は、家族を通すと、患者(聴覚障害者)に伝わる情報量が減る
・ 読唇ができても専門用語は書いて説明してほしい。
・ スタッフが忙しくしている時は、患者から「書いて教えてほしい」とは言いにくいので、スタッフのほうから積極的に書いてほしい。
・ 難聴者は手話ができない人が多いので、筆談してほしい(聴覚障害も多様なので、対応を分け てほしい)。
・ 筆談は敬語など修飾語はいらないから要点だけを書いてほしい。
・ 筆記だけで理解できる聴覚障害者もいるが、筆記だけでは不十分な場合もある。耳が聞こえない人は目で見て物事を判断するので、見えないものを信じることが難しい。たとえば、効果が現れるの に時間がかかる薬などは、患者が本当にその薬の必要性を理解していないと、飲み続けることは難しい。 文章では、なかなかそういう重要な点、ポイントを伝えることが難しい。
・ 患者の目の前で患者とは関係ない話をするとき、その状況を説明してほしい、または、状況を 説明することを医療者は理解してほしい
・ ろう者は手話通訳を通してきちんと知りたい
・ 付き添いが聴覚障害者の場合も要望があれば手話通訳派遣を使ってほしい(患者である子供が 聴覚障害の親に手話で通訳していたケースもある) ・ 高齢者は指文字が苦手なので、年齢に応じて手話も使い分けてほしい ・ 手術などの大事な話は、患者の了解を得て通訳派遣を利用してほしい(できるだけ同じ人がよい)
検査時
・ バリウム検査など、体を無理やり動かされるより図面で指示してもらうほうがいい。
・ 検査の時は待っている間にやり方のビデオを見せてもらいたい。文章で説明されてもわからない。
・ レントゲン室にライトをつけてほしい。
・ 眼科の場合、まぶしい検査をした後は、筆談の文字が読めない(検査の前後で十分な説明の必 要性がある)。
入院時
・ 入院時、館内放送では分からない。忙しくても直接話してほしい。
その他
・ ろう者を講師とした手話講座を開いてほしい。
・ 医療者が(自己紹介程度だけでも)手話を覚えてもらえると嬉しい。
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【追記】(2023年8月19日加筆中)
>「「かきポン君」」
その場ですぐに消せる方が、安心感がある。
なぜならば、患者に関することを書いているのだから、個人情報保護法にも、抵触しかねない。
>「合図君」
今では、大病院だと液晶で番号が呼ばれるようになっているところあるが、
昔は名前で呼ばれ、本当に苦労した。
呼ばれてもわからず、飛ばされて、最後になってしまったこともあった。
>「脳波検査では目をつぶってしまうと手話が見えなくなるのであらかじめ「肩を叩いたら目を開いても いいですよ」などの合図を決めておき、検査中の指示はその合図で行われている」
この習慣は、ろう者の世界では、特に当たり前になっているようだ。
けれども、別に、ろう者に限った話ではない。
聴覚障害者は、視覚情報に頼っている場合も、少なくはない。
そういう者に対し、「目をつぶれ」と、いい加減な指示をする健聴者も、
なかにはいる。
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【参考記事】
おかしいのはどっち? ろう者の常識と健聴者の常識
2017年 05月 23日
おかしいのはどっち? ろう者の常識と健聴者の常識 : 蒼穹 -そうきゅう- (exblog.jp)
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>「FAX 番号を周知してほしい」
これは、必要なのだろう。
しかし、情報が誤って全くの他所に行ってしまリスクもある。
このリスクにより、聴覚障害者からだという情報も漏れてしまう可能性もある。
>「FAX にはすぐに返事をしてほしい。」
現実には無理。
というのも、病院ではないが、下のような例も、実際にあった。
働いている健聴者も忙しいこともあり、すぐには対応が無理な場合がある。
これは、東京都消防庁にも相談したが、
「一番いいのは、健聴者に頼むこと」と言われてしまった。
(かわされているだけ?)
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【参考記事】
やっぱり、聴覚障害者対応はどこも、後回しにされるのが当たり前になっている
2023年 03月 06日
やっぱり、聴覚障害者対応はどこも、後回しにされるのが当たり前になっている : 蒼穹 -そうきゅう- (exblog.jp)
>「職員;「電話が優先になります」」
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カテゴリ;『FAX対応の時の悩み』
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>「処方箋の受け渡しも合図君を使ってほしい。」
これは、病院側の周知徹底が不足していた可能性が高いのだが、
よくあったことである。
今は、診察(病院)と薬(薬局)は分離しているので、
親切な薬局も増えたが、やはり健聴者には注意したい基本的な事項だと思う。
>「マスクをつけたまま話す医者の言うことはわからない」
>「診察では、カルテばかり書いていないで、患者の顔を見てほしい」
>「読唇ができても専門用語は書いて説明してほしい」
これは、読話が得意な聴覚障害者からの意見だと思う。
しかし、そんな聴覚障害者ばかりではないので、
人によって、対応が異なる。
>「スタッフが忙しくしている時は、患者から「書いて教えてほしい」とは言いにくいので、スタッフのほうから積極的に書いてほしい」
というよりも、最初から書いてくれた方が、明かにいい。
患者側が情報を知らずに聞き逃したり、聞き間違えたりする可能性も、
全く無ではないからだ。
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【参考記事】
難聴の疑似体験
2018年 09月 15日
難聴の疑似体験 : 蒼穹 -そうきゅう- (exblog.jp)
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>「文章では、なかなかそういう重要な点、ポイントを伝えることが難しい」
聴覚障害者が通う聴覚障害者対象の文章教室でも、あった。
当ブロブにも、ろう者の薬剤師の話を紹介している。
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【参考記事】
ろう者薬剤師が著したブログ
2013年 04月 20日
ろう者薬剤師が著したブログ : 蒼穹 -そうきゅう- (exblog.jp)
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【大分古い本だが、昔はこんなに酷かった】
『音から隔てられて -難聴者の声 -』(1/4)
2020年 05月 17日
『音から隔てられて - 難聴者の声 -』(1/4) : 蒼穹 -そうきゅう-(exblog.jp)
>「「この本は、わが国の難聴者福祉運動の中で生みだされたものである。わが国では、これまで聴覚障害に関する一般的な書物はまったくない。ただ一冊、ろうあ(聾唖)についての啓蒙書があるが、それはフランスの本の翻訳である。わが国における聴覚障害者の数と、問題の深刻さを思うとき、驚くべき出版界の現状といえよう。そこで、われわれの秘められた生活の苦しみと、切実な要求とを広く社会に訴えるために、一冊にまとめたのが本書である。
・・・・(中略)・・・・
聴覚障害のゆえに言語を与えられなかったのがろうあ者であり、そのゆえに言語コミュニケーションが困難なのが難聴者であり、一度与えられた言語コミュニケーションを奪われたのが中途失聴者である。同じく聴官を障害されながら、三者の区別されねばならぬゆえんがあり、ことに言語獲得の有無が、ろうあ者と後二者とをへだてている。それを思えば、人間を人間たらしめるものとしての言語の意味の重さを痛感させられる。聴覚障害者の存在は、人間の本質へのきびしい問いかけであり、聴覚障害者が人間でありえないような社会は、完全な社会とはいえないであろう。中途失聴・難聴者にはろうあ者とはまた違った独自の悩みがあり、独自の要求がある。」・・・・
この場合、言語とは、「日本語」のことを指しているのだろう。
換言するならば、母語が違うのである。
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>「放射線科の検査は紙に絵を書いて指示してほしい」
>「バリウム検査など、体を無理やり動かされるより図面で指示してもらうほうがいい」
当ブログでも、こういった意見はある。
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【参考記事】
カテゴリ; 『聴覚障害者と胃部レントゲン検査』
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>「レントゲン室にライトをつけてほしい」
暗いと、指示がよく見えない。
聴覚障害者は耳が不自由な分、視覚情報に頼っている。
そのことを、レントゲン技師は、完全に忘れているから、こういう意見が出るのではないか?
>「眼科の場合、まぶしい検査をした後は、筆談の文字が読めない(検査の前後で十分な説明の必 要性がある)」
明るすぎても、良くない。
>「館内放送では分からない」
極めて当たり前すぎることが、わかっていないと感じる。
>「 医療者が(自己紹介程度だけでも)手話を覚えてもらえると嬉しい」
「嬉しい」ではなく、必要だから、そういった配慮が本当に必要なのではないだろうか。
「合理的配慮」の一つだと思う。
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