声(健聴者)のマナー

ろう者には普通、ないマナーでも、
健聴者には当然あるマナーがあります。

先天性の聴覚障害者は、漢字の読み方を
間違えて覚えていたり、発音がおかしい、
といったことがあることは、以前に述べました。

しかし、それだけではなく、声の大きさも、
調節が難しいようです。

例えば、声をきちんと出す必要があるのに
小さ過ぎたり、逆にもっと小さな声で話す
べき場面で大き過ぎてしまったり、です。
慣れの問題でしょうけれども、
話すことが少なくなって、
補聴器も外したままでいると、
その感覚も忘れてしまうのかな?
と最近は感じるようになりました。

ろう者の間では、わざわざ「音のマナー」と
呼んだりしています。
ろう者社会では全く必要なくても、
健聴者社会の中で生活していくためには、
それが必要だからでしょう。

仕事をしているとき、覚えが曖昧で心配
だったことがあるので、Mさんに質問しました。
その時、Mさんからは

「M? 『さん』はないの?」

と言われて、驚きました。

私は「『Mさん』と呼びましたよ」と言ったのですが、
Mさんは

「私は『M』はハッキリと聞こえたけど、
『さん』は聞こえなかった。
会社では障害の有る無しも関係なく、
コミュニケーション・マナーが悪いと、
誰も相手にしなくなる。
社会人として、人を呼び捨てにしないように」

というふうに(筆談で)言いました。

私はどうも納得できないな、と思いながらも
謝りましたが、すると今度は

「謝るときは笑わないで」

と言われてしまいました。
これも

「謝る時、自分は笑っていたのかなぁ?」

と思ったけど、
Mさんにはそう見えたわけなのだから、
とにかく疑問点はさておき、
謝りました。

しかし、Mさんも納得しないような表情で、
さらにこう言いました。

「声は自分で出しているんだから、
声を出しているかどうかは、
あなた自身がわかるはず」

これは、健聴者は確かにそうだろうけど、
自分の声があまりよくわからない

(というか、補聴器を外していれば、聞こえない)

私としては、
あまり納得できませんでした。
声を出しているか、いないかはわかると
思うのですが、大きさの微妙なところまでは、
確かにわかりにくいです。

私は、

「S課長からは逆に
『あなたの声は、怒っているみたいで大きいので、
もっと小さくして』
と言われたこともあります」

と言ってみました。
しかし、そんなことはやはり「言い訳」としか
受け取られませんでした。

逆に

「権利ばかり主張し過ぎると、
誰も聞いてくれなくなるよ」

などと言われてしまいました。

同じように私の普段の呼び声が大きい
せいか、Nさんもよく、私に呼ばれて
びっくりした反応をしていたことが
随分あります。

自分の声が大きいようだから、
もっと小さくしてみてはどうか、
と思って試していた矢先でした。
人事部のCさん(ろう者)も

「彼は話せるが、声が小さい」
(人事課長・Mさん/談)

のだという。

実は私は、両耳の補聴器を外すように
なって、もう一年近く過ぎて、
自分の声も他人の声もわかりません。
話し声のアクセントなどはまだそんなに
おかしくはなっていないと一応、
思います。

でも、周りの人のこうした反応を見ると、
自分はいよいよ、声量の調節が難しく
なってきているようだ、
と感じざるをえなくなりました。

その他にも、補聴器を外すと、
自分が立てている音にも、
自分だけ全く気にならない、
という結果になっていたりします。

要するに、音に関するマナー、エチケットが、
昔のろう者に似てきているのです。

「ろう者は音(健聴者)のマナーを知らない」

とよく言われます。
本人は知らない、気がつかないとはいえ、
これは健聴者にとっては、
迷惑なのだという。
本人が知らないうちに、周囲の健聴者からは

「自分だけよければいいと思っているのか、
アイツは?」

と思われているでしょう。
これについては勿論、私も一応は理解でき、
言い訳はしません。
ただ、別の意味で言うと

「健聴者とろう者の間には、やっぱりズレは
あるんだな」

と思いました。
自分にとってはもう、補聴器をしない生活の
方が楽で、それこそ聞こえなくなった障害を
受け入れ、自分らしくできるのですが、
そうすると今度は、周りの健聴者への配慮が
できなくなる、という問題が生じてきます。
そして

「なるほど、これが問題なのか」

と、気づきます。

こうしたことに気をつけたいと思えば、
やはり会社では補聴器をつけざるをえない
のかな、と思ったりします。

実際に会社の人からは、よく

「補聴器をつけろ」

と言われています。
補聴器を外していると、音の世界と別れて
しまうので、なかなか注意がすみずみに
までは、行き届かなくなってしまいました。

でも、そうは言っても、また補聴器をつけて
中途半端な音声世界へは、自分は戻りたくは
ないのです。
自分には、自分のアイデンティティを決める
権利があります。
しかしながら、健聴者は、聞こえない人の
アイデンティティなんか、認めていないような
気がします。

以前にも書いていますが、本当の「歩み寄り」
って、何だろう?

(当ブログ

『「歩み寄り」って、何ですか?』
〔2011-08-20 02:10〕


参照)

健聴者の考える「歩み寄り」と、
聞こえない人の考える「歩み寄り」には、
まだまだズレがあるのではないだろうか?

健聴者は

「アイデンティティとマナーは別問題だ」

と言うに違いないと思います。
それは確かに、表面的には正しい、
と自分も思います。

しかし、健聴者には別問題と言い切れても、
聴覚障害者にとっては、本当は無関係では
ないのではないでしょうか?
私には、そんな気がするのです。

極端な話、耳の聞こえない人が、
たとえ愛する人の前でも、
音のマナーをいちいち気にしている生活を
一生、続けていられるものだろうか?

社会ではマナーを守ることは必要ですが、
耳の聞こえない人が自然体でいられる
時間が、会社の中ではほとんどないと
言っていいのかもしれません。

残念ながら、このことは健聴者には
分かりません。
聞こえない人の人生なんて、
経験できないからです。
逆に先天性の聞こえない人だって、
健聴者の人生なんて、
経験できません。

それなのに「歩み寄り」なんて、
できるわけがないのではないか?
どこに歩み寄るかもわからず、
それを言い合っても、
無理ではないでしょうか。

私は、健聴者にお願いしたい。
そんな「歩み寄り」なんて、もうやめて
下さい。
それをもう、言わないで下さい。

人間の、真の和に必要なのは、
お互いの個性(障害も含める)を認め合い、
尊重することではないでしょうか?

私はもう「歩み寄り」には反対です。
そんなモノは「妥協の産物」にしか、
過ぎないのではないでしょうか?
そんなもので、いつまでも誤魔化されて
しまうのは、もうまっぴらゴメンです。

「ノーマライゼーション」とは「歩み寄り」
だと思っている健聴者が多い気がしますが、
それだって、違うのではないでしょうか?

私は今、ダイバーシティ構想を支持しています。
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by bunbun6610 | 2016-01-14 18:30 | 就労後の聴覚障害者問題Z1


ある聴覚障害者から見た世界


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