聴覚障害者に届かない情報とは


『聴覚障害者に届かない情報とは』

 ――仕事をしない職場のボス・Nさん――



私の部署には、5年在籍している先輩
Nさんがいます。
おそらく、部署で最も長く居続けている人
です。

Nさんの周りの人からの評判は
どんなふうなのかは、
耳の聞こえない私にはわかりません。

評判、噂といったものは、
たまたま親しい誰かがボソッと言ったことが、
自然と広がるものでしょう。
筆談でわざわざ伝わってくるものでは
ありません。

だからそういう話は、私には全く届かない
ものなのです。
ごく自然な会話は聞こえない、というのが、
聴覚障害者には意外に大きなハンディに
なっていることが少なくない。

健聴者にとってはおそらく、
そこに居るはずの聴覚障害者は居ないも
同然で、「透明人間」と同じなのでしょう。
そういうことまでは気がつかない健聴者は
多いのでは、と思います。

皆が当たり前のように知っていることでも、
職場の聴覚障害者だけが知らなかった、
ということは案外、よくあるものです。

それで耳も聞こえず、情報も乏しいと、
他人への見方も、いやでも健聴者と比べて、
極端に自己中心的になってしまうものです。

これは言い訳で言っているのではなくて、
本当にそういう研究結果が明らかに
されています。

だから自分も、そういう原理があることは、
一応わかっているつもりです。

でも、そこから自分で出ることが、
必要だとはわかっていても、
それはとても難しいことなのです。

耳からの情報が乏しいまま生涯を過ごす
ということは、健聴者には想像できない
でしょうが、少なくとも、それは普通では
ないということは、
わかってほしいと思います。

それが原因で、他者とトラブルになって
しまうことを極端に、いつも恐れながら、
おとなしくしていることも多くなるものです。

そして我慢の限界も過ぎると、
ある日突然、爆発してしまい、
とりかえしのつかないことをやってしまう
こともあります。

良くないのはわかっているのですが、
自己制御ができなくなるのです。

今では、こういう聴覚障害者心理が、
専門の研究者によって解明され、
本も出版されています。

しかし、一般の人への認知は全くといって
いいほど、ありません。
だから、聴覚障害者への理解不足は深刻です。

「特に他者との間での発言や行動に、
主体性が持てない」

とか、行動してみたらみたで今度は

「聴覚障害者は自己中心的な行動ばかりする」

と言われたりします。

だからいっそのこと、結局、
自分は何もしないほうがいいんだ、
生きている意味なんかないんだ、
と卑屈な性格になってしまう。

つまり、聴覚障害は、その人の奥深くで性格、
人格にまで影響を及ぼしているもので、
それが最も恐ろしい、
負の力を持っているものなのだと思います。

生きるためには、
私はそれと絶えず闘わなければなりません。

それがもう、イヤになってきました。
疲れたのです。
心を蝕まれているのです。

すでに本題から話がそれてしまっていますが、
もう少しこのまま続けさせてください。

でも健聴者は噂とか、つまり、たわいのない、
何気なく伝わってくる話から、
職場の仲間同士で話も弾んでゆき、
人間関係が出来ていったりしていませんか?

私から見ると、間違いなくそう見えています。
私にとっては、筆談だけが健聴者との会話を
つなぐ、大切な、唯一のコミュニケーション手段
になっています。
けれども、職場での、実際は仕事の指示という、
それも極めて機械的な伝達だけに過ぎない
筆談だけで、これを成し遂げるのは、
ごく稀だと思います。

だから健聴者の皆さんには、手話にもっと
注目してほしい、と思います。

話を本題に戻します。
上の話は関係なかったようで、
実は下の話と関係のあることになりますので、
よく考えながら読んでください。

私の見るNさん像というのは、
かなりひどい人格者として映り出されています。
それは具体的にどんなふうなのか、
を書いてみたのが、次のことです。

(1)遅刻は何度もする。しても、「すみません」がない。

(2)挨拶もしない。

(3)遅刻しても今度は仕事中、朝食を食べている。

(4)仕事中、おしゃべりのし放題。

(5)リーダーでありながら、リーダーシップがない。
自覚もない。全員をまとめ、仕事を時間までに
きちんと終わらせられない。

(6)仕事中にお化粧し放題。(ナルシスト?)

(7)筆談できちんとした指導をしない。
(お陰でトラブル〔業務上ミス〕が発生したこともある)

(8)仕事中、インターネットで遊び放題。

(9)仕事中にお菓子食べ放題。

(10)聴覚障害者への職域差別となる仕事の
指示もしている。

(11)やることが自由奔放で、本人もよく担当した
仕事でミスをしている。

(12)仕事中に、今度の休日の予定を立てるため、
旅行パンフレットを読んでいたり、インターネットを
見ていたり、ショッピングか飲み屋か何かの
パンフレットをしょっちゅう見ている。

(13)残業代を独り占めしている。

(14)そして、こうした人格者だから、
職場の皆もマネして、同じようなことをやっている、
と考えられる。

これを読んで、皆さんは何か気がつかないだろうか?
まず誰でもすぐ気がつくのは、

「あなたはNさんの悪い面ばかり言っている」

ということだと思います。
他にはないでしょうか?

私は自分でこう書いてみて、気づくことがありました。
それは、これらが全部、

「見たことに基づいて書いた、客観的事実」

だということです。

「自分にとって、どんなふうに見えるか」

を書いたのではありません。

これが他の人、健聴者なら、例えそうであっても

「他人の悪い面ばかり見るのはよくない」

と思うでしょう。
でも、私自身はそうは思っていません。
なぜなら、それ(自分の眼で見た情報)しか
知らないからです。
私の場合は、耳からは情報が入りません。

健聴者はそうではありません。
どんなに悪く見える人でも、その人の良い面も
何か見つけようとして、まずコミュニケーション
から始めてみるのではないでしょうか?
そして話し込んでいくうちに、相手のことも理解
できて、さらにお互いに分かり合えることも
できるかもしれません。
この見えない情報(相手の人格)を見る行為こそ、
人間が持つコミュニケーション能力なのです。

おそらく、Nさんも他人からは、
自分の良い面をそうして理解してもらえていて、
周囲の人との人間関係は決して悪いとは
言えないのかもしれません。

あれだけ話しばかりしていて、
その内容まで悪かったら、
誰も言うことをきかなくなるでしょうから。

でも、私とNさんの関係は、確実に悪い、
と言えそうです。

映画でもよく、例えば刑務所に入っている
極悪人が、他者とのコミュニケーションを
通して人格が変わっていく、
というような物語がありますね。
あるいは、刑務所の人が服役囚の良い面を
知るようになったりします。

新約聖書には、イエスが他の2人と磔刑に
なったときでも、隣の極悪人とコミュニケーション
をしている様子が描かれています。
そして、死の直前でありながら二人
(イエスと一方の処刑人)に絆ができています。

コミュニケーションは人間にとって、
人間関係の構築にとって、
やっぱり大切なんだと思います。

「会社は仕事をする場所だから」

と言って、聴覚障害者とのコミュニケーションを
ないがしろにしている日本の会社こそ、
やっぱり間違っているのだと私は思います。


「『仲が悪いからコミュニケーションがない』

のではなく、

『コミュニケーションがないから悪くなる』」

  『戦略と実行』(清水勝彦/著)
   →http://ec.nikkeibp.co.jp/item/books/P48450.html

これもやっぱり、当たっていると思います。
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by bunbun6610 | 2015-08-24 18:30 | Z1.クレジットカード会社


ある聴覚障害者から見た世界


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