『女性は理科が苦手なのか』




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啓発誌『働く広場』
(独立行政法人 高齢・障害・求職者
雇用支援機構/発行)




『働く広場』(2015年2月号)

エッセイ第2回
『女性は理科が苦手なのか』


中島隆信/なかじま たかのぶ
慶應義塾大学商学部教授。専門は応用経済学。
1960年生まれ。
1983年慶應義塾大学経済学部卒業、
2001年より同大学商学部教授。
同年、慶應義塾大学博士(商学)取得。
2007年より内閣府大臣官房統計委員会担当室長
を約2年間務める。
経済学とは一見縁遠いと思われる対象を経済学の視点
から一般向けに論じた著書多数。
また、大相撲にも造詣(ぞうけい)が深く、日本相撲協会
「ガバナンスの整備に関する独立委員会」では、副座長
として相撲協会改革案について意見書を取りまとめた。





私が勤務する慶応義塾大学商学部がホームページで公表して
いるスタッフリストによると、2014(平成26)年4月現在、三田
キャンパス(専門課程)所属教員のうち男性は54人、女性は
8人である。
一方、日吉キャンパス(教養課程)では、男性36人に対して
女性は19人となっている。
商学部の専門課程は、経営、会計、商業、経済といった社会
科学系分野から構成され、教養課程は語学、文学、芸術、
心理学といった人文科学系である。
この数字を見る限り、男性は社会科学系が得意で、女性は
人文科学系に優位性を持っているように見える。
これを裏付ける統計もある。
文科省『学校基本調査』から学科別学生数を調べてみると、
社会科学系、理科系は男子が多く、人文科学、教育、家政
などでは女子が多いのだ(図参照)。(※)


これらの基本的な数値から、男女の能力には根本的な違いが
あると判定していいのだろうか。

いまから10年ほど前にハーバード大学長がある会合の席で、

「生物学的に女性に数学の天才は少ない」

という主旨の発言をしたことがあった。
おそらくその学長は、特に悪気もなく単に「統計的事実」に基づ
いて話したと思われるが、のちにこれが「女性差別発言」だと
物議を醸し、結局、辞任に追い込まれた。

このように、統計に基づいて特定の属性を持つ人々の能力を
一括りに判断することを「統計的差別」という。
これが「差別」となる理由は2つある。

1つは、「女性は数学が苦手」という「事実」が人間の能力を判定
するうえでの「シグナル」となって、能力ある女性の就学や就職に
不利に働く可能性があるからである。

もう1つは、こうした「統計」が家庭や教育現場の「すり込み」に
よってもたらされたもので、真実を表していない可能性である。

例えば、親が子どもの誕生日のプレゼントとして、息子には
「理科図鑑」、娘には「プリキュア」を与えるなど、発達の段階
から性差をもたらす行為をしている場合もある。

また、高校でも、

「数学が苦手な女子は私大文系を目指せばいい」

といった考えを多くの教員が持っているかもしれない。
こうした「通念」があると、数学を学ぶ過程でちょっとした困難に
ぶつかったとき、女子学生は数学を簡単に諦めてしまうだろう。

この「統計的差別」は障害者にもあてはまる。

たとえば、精神障害者が傷害事件を起こし、マスコミがそれを
ことさら大きく取り上げると、国民には

「精神障害者は他人に危害を加える」

という「事実」がすり込まれる。
傷害事件を起こすのは精神障害者に限ったことではないのに、
報道という「統計」が誤ったシグナルを形成し、そのことによって、
精神障害者施設の建設反対運動などが起こったりするのである。

こうした差別を防ぐには、シグナルの誤りを正さなければならない。
これは当事者が誤りであることを証明していくしかないのだ。
時間のかかる地道な努力が必要となるのである。(つづく)





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(※)
図の代わりに、統計表にして掲載する。
数値は正確には出せないので、グラフを目分量で測り、
掲載してみたので、ご容赦いただきたい。


【大学/大学院学科別男女別学生数(2013年度)】

人文科学  (男)約130000人  (女)約250000人
経・商・法 (男)約450000人  (女)約180000人
社会学   (男)約70000人   (女)約80000人
理学    (男)約70000人   (女)約25000人 
工学    (男)約350000人  (女)約50000人
農学    (男)約40000人   (女)約40000人
保健    (男)約120000人  (女)約180000人
家政    (男)約5000人    (女)約70000人
教育    (男)約80000人   (女)約110000人
芸術    (男)約15000人   (女)約50000人

文部科学省『学校基本調査』より



〔関連情報〕

『『障害者の経済学』(中島隆信/著)』
〔2011-05-14 21:46〕





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>「また、高校でも、

『数学が苦手な女子は私大文系を目指せばいい』

といった考えを多くの教員が持っているかもしれない。
こうした『通念』があると、数学を学ぶ過程でちょっとした
困難にぶつかったとき、女子学生は数学を簡単に
諦めてしまうだろう。」



障害者雇用についても、同じことが言える。
障害者だからといって、簡単に『職場内障害者授産施設』
にぶち込む、というやり方が、障害者をダメにしてしまって
いるケースが多いように思える。
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by bunbun6610 | 2015-05-09 18:00 | 障害者の経済学
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ある聴覚障害者から見た世界


by bunbun6610
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