ブログトップ

蒼穹 -そうきゅう-

手話の語源説について

先日、歌手デビューも果たしたシャーロット・ケイト・フォックス
さんが、テレビのインタビューを受けていた。

「最初に覚えた日本語は?」

の質問に対し

「おはようございます」

だった。
その次の

「どうやって覚えましたか?」

には

「朝、ポテトを食べる。
オハイオ州。
オハイオございます。
それを『おはようございます』と代えて覚えた」

と話していた。

全くデタラメな覚え方だったのだが、
確実に覚えることができたそうだ。

それを聞いて

「手話学習でも、そんなことがあったなぁ」

と思い出した。


健聴者が手話を学ぶ目的は

「手話通訳者になる為」

ということが多いと思う。
その為か、指導も極めて正確というか、
厳しい。
それでいて、通訳時に柔軟性も求められている。


一方、手話を第二言語として学ぶ難聴者や中途
失聴者は、もう一つのコミュニケーション手段として
取り入れる。
通じればいいのであるから、そんなにこだわらない。

しかも、誰と通じる手話を獲得したいかは、
人によって違う。

もしろう者とのコミュニケーションで使いたいのなら、
日本手話を学ぶだろう。

しかし

「難聴者や中途失聴者とだけ、手話で話せればいい」

と考えている人たちなら、やはりそれに合わせる。
つまり、圧倒的に多い日本語対応手話だ。

両方を覚えられれば、それが一番いいことは
わかっているが、現実には、それはかなり難しいことだ。
そこで、初めは難聴者や中途失聴者にも学びやすい
日本語対応手話から学習するのが、ほとんどである。

私もそうだった。
もう25年ほど前のことだが、県の難聴者・中途失聴者
対象手話講習会に通ったことがあった。
講師はろう協の方だが、中途失聴者だった。
長年、ろう協に貢献してきた方らしく、元教師で、
様々な経験や知識をお持ちの方だった。
それで、手話学習には、難聴者や中途失聴者に
好きな人も多い、語源学習も取り入れていた。

その一つに、人の名前の手話「斉藤」があった。
講師は「斉藤」の手話語源を、こう説明していたのだ。

「昔、ろう学校に『斉藤』という男の子がいたの。
その子の特徴は“ハナタレ小僧”だったので、
みんながその子の名前を手話で、
こうやって表していたの」
(鼻の穴から、日本の指〔人差し指と中指〕を下へ伸ばす)

それが講師の語源説明だった。

その話に私は、「信じられないな」という表情を浮かべ
ながらも、大笑いした。

しかし、だいぶ後になって「斉藤」の語源は、
実は斉藤道三という武将の、あごひげの特徴からだと、
別の人から聞いた。


『「戦国武将物語~大名編その壱~」
第六話 斉藤道三物語』
〔2011/2/27 16:16:12〕



『斎藤道三(裃姿・座像)』



手話パフォーマー/通訳士~南 瑠霞(るるか)
の手話日記
『スタジオ・差し入れ・ラーメン・斉藤工さん!!』
〔2012年05月12日〕





でも、昔の講師の語源が正しかったか、間違っていたかは、
自分にはどうでもよいことだと思っていた。
間違いでもいいから、手話をすぐに覚えて、
すぐに使えるようになることが大事だったと思っている。

語源説明が真実かどうかは別として

「面白い話を交えると生徒たちは直ぐ覚えてしまう」

という点は、利用しても決して損ではないと思う。

(手話通訳者、手話通訳士を目指す人には、
勿論例外である)


ただ、ろう者からは

「語源にこだわらないほうがいい」

というアドバイスをしてくれる人が、結構いる。

「なるべく、難しく考えないほうがいいから」

「手話は楽しみながらのほうが、覚えるから」

とか

「語源説明に時間を使ってしまうよりも・・・」

「相手の癖にも柔軟性を持って対応することが、
コミュニケーションには大切」

といった気持ちがあるようだ。

私は

「語源学習で手話を覚えるのが楽しくなり、
覚えるのも速くなるのならばいいが、
こだわり過ぎるのはよくない」

と思う。

理由は、語源説はさまざまなものがあり、
どれが正しいのかはわかっていないことも多いからだ。
これは、日本手話(伝統的手話)に詳しいろう者から
聞いた話だから、本当だろうと思う。

それなのに「こっちが正しい」と言って、
ケンカになっていることも、ごくたまには見かけた。
語源学習が好きな手話学習者に多い。

コミュニケーションを楽しみ、お互いに絆を結ぶために
ある手話を学んでいる途中で、受講生同士がこんな
口論をして不仲になってしまった、というのは残念である。

昔のろう者の手話を知っている人ならわかると思うが、
名前の手話は「あだ名」で使われていることも多かった。

例えば「遠藤」。

漢字等の手話を使って「遠い/藤」と顕すのが一般的だが、
その人の特徴を表現することが少なくなかった。
私の知っていた遠藤さんは、いつもキャップ・タイプの帽子
を被っていた。
それを知っていた誰もが、CL手話(※)でそれを表して
呼んでいた場合もあった。
勿論、地域外のろう者には通じないこともあるわけだ。


(※)CL〔類辞(classifieres)〕
『手話のダイグロシア』
〔2011-06-21 00:16〕


だから、ある地域では昔、「斉藤」というハナタレのろう者
がいて、その手話表現が使われていたとしても、
全然不思議ではないのだ。
その手話が、間違っているとは限らない。

そんなことを、シャーロットさんの話を聞いていたら、
思い出していた。
[PR]
by bunbun6610 | 2015-05-06 18:30 | 手話