手話を捨てた手話通訳者

ろう者の雇止めの話は、よくあることだ。



『“助成金目当ての、ろう者雇用”はまだ続いていた』
〔2015-02-28 23:54〕




『雇止めの通達』
〔2014-12-01 20:39〕




『リストラ配属部署と使い捨て障害者配属部署の関係』
〔2014-12-02 20:39〕




『売上日本一のT社が聴覚障害者にしたこと』
〔2015-03-16 18:30〕




『障害者雇用 - 雇用期間のスモールステップ
が広がりつつある背景』
〔2015-02-14 09:35〕




私も例外ではなく、何年かするとまた、
会社からその話を一方的に伝えられ、
そして失業する。

それからまた職探しに、ハローワークの
専門援助第二部門へ行く。

そこに行くと、もう何年も前からいる手話通訳者が、
パート職員として働いている。

しかし、不思議なことに、この人が手話を使って
いる姿は、めったに見たことがないのだ。
手話が必要なろう者が来ても、大抵はこの人は
相手にせず、他の職員が、派遣センターから
派遣された手話通訳者を使って、相談に応じている。

なぜなのだろうか。

もう、ろう者の相手はしない、ということだろうか。
それでなくとも、その人の手話通訳の技術力は
落ちていた。

ハローワークの常連である私が言うのだから、
これは間違いない。

月に3~4回(毎週ではない)、定期的に手話通訳者が、
派遣センターから派遣されているのだが、
仕事を探しに来るろう者は、その日にしか
来ないわけではない。

そもそも、手話通訳者が来ると決まっている日には、
一気にろう者がやって来ることもある。

それも、本当に手話だけがコミュニケーション
手段の、年配の方が来る。

だから私は、そういう日を避けて行っている。
私は常に筆談ボードも携行しているので、
状況によって手話か筆談にしている。

ありがたいことに、今は手話通訳者がいなくとも、
手話ができる職員が何人かいる。
資格を持った人ではないが、その人たちが

「私でよろしければ、ご相談を承りましょうか?」

と、手話で積極的に言ってくれる。

職員のほうも、いつも同じ言葉を使って、
やりとりをしているので、使う手話は大体決まって
いる。
だから、簡単なやりとりはできるのだ。

読み取りの方だって、私は相手によって日本語
対応手話も使う。
ごく簡単な手話文にまとめているから、
職員も読み取れている。

もしも通じなかったら、手話に拘らず、
筆談ボードに切り換えている。

だから、手話通訳者がいなくても、問題は何もない。

手話通訳者の資格を持つ職員もいるが、
その人が私の相手をする必要がないのは、
こうした理由もあるからだ。
だが、それだけではないようだ。

その手話通訳者の資格を持つ職員は、
以前に一度だけ相談させてもらったことがある。
その時は、相談した私のほうが、逆にその人の
不満を色々と手話で聞かされて、
面食らってしまった。
相当、手話に恨みでもあるかのような様子
だった。

「手話にはまったばっかりに、
こんな回り道をしてしまったわ」

みたいな気持ちがあるようだった。

もうだいぶ昔のことなので、詳しくは憶えていないが、
要約すると

「手話通訳者の資格を取っても、それだけを職業に
して生活してゆくことはできない」
(仕事が少ない、給料が少ない)

という不満だった。


以前に、役所の主催で開かれた、聴覚障害者に対する
手話通訳者派遣についての意見・要望を聞く、
公開ヒアリングがあった。

そこで、役所側の説明に

「手話通訳者の合格者が毎年出ていても、
手話通訳の仕事のほうは休む人も出ていて、
実際の活動者数は、あまり増えていない状況である」

といった報告内容があった。
それを聞いていたろう者(Deaf)の一人が怒ってしまい

「我々が一生懸命に育ててきたのに、
何で休んでしまうんだ?!」

と言った。

役所側は

「まあまあ。
それぞれに休む事情があるので、また出来るように
なってから、活動してもらえたらいいと思って、
登録はそのままにしてあります」

という切り返しの説明だった。

しかし、それではその通訳者が現場に戻っても、
通訳技術は落ちてしまうのではないだろうか。
そのツケは必ず、ろう者に返ってくる。
そこが、利用者である、ろう者側の心配なのである。

現実には、一方で

「手話通訳者の数は、まだまだ足りない」

と、ろう者側は言うので、なぜ手話通訳者として
だけでは、メシが食ってゆけないのか、
理解に苦しむのであるが。


ところで、私がこの話をしたのは、実は、
もう一つの裏事情を知ってもらいたいからである。

会社がろう者を雇用しても、手話通訳者を派遣した
がらないことは、以前の記事で述べた。(※1)



(※1)
『健康相談の通訳者派遣を断られる』
〔2011-03-04 18:00〕




『会社で要約筆記通訳が使えないワケ』
〔2011-10-13 22:42〕



『通訳者拒否を通して見える、権利侵害』
〔2012-02-18 01:40〕




『手話・要約筆記通訳とは何か?』
〔2012-10-26 18:00〕




それから、会社のなかには、手話通訳者を
外部から派遣してもらうのではなく、
多少の手話ができる程度の、つまりボランティア
レベルの手話ができる人を事務員兼手話通訳者
として雇用して、その人をろう者との通訳に充てる、
という方法を採っている会社もある。(※2)


(※2)
『健聴者にだまされたこと (1)』
〔2011-08-04 00:39〕




『障害者雇用 - ジブラルタ生命保険株式会社
(手話通訳および一般事務)』
〔2015-01-19 19:30〕





あるいは、手話が出来る聴覚障害者で代用
しているような事例もあった。


『障害者雇用 - 楽天ソシオビジネス株式会社』
〔2015-01-31 18:30〕




これらは、最初に述べたハローワークの事例と
同じだということに、気がつかないだろうか。

「もし、こうしたことが進めば、
聴覚障害者にとっても喜ばしいことだ」

と、最初は私も思っていた。

確かに、手話通訳者を呼ぶのは大変な負担である。
それが、手話通訳者が会社に常駐するのは、有難い。
だが本当に、それで安心していいだろうか?

もしこれが進んでいけば、派遣センターも
手話通訳者も要らなくなってゆくのではないだろうか。

少なくとも、企業には不要な存在になると考えられる。

利用者側にとっても、決して喜べることとは限らない。
通訳の公平性、中立性はどうなるのか?



『手話・要約筆記通訳とは何か?』
〔2012-10-26 18:00〕




通訳への不満や、差別があっても、会社側の通訳者だと、
ろう者はそれを正直に言えなくなってしまうことも
十分考えられる。
派遣センターから外部派遣された手話通訳者は、
ろう者が利用者であるけれども、
会社側の手話通訳者だと、ろう者は同じ社員でしかない。
しかも、手話通訳を行う者が指示を聞くのは、
ろう者ではなく、会社の上司等だろう。
ろう者社員は、主権侵害をされることもありえる。

さらに、通訳技術のレベルは、どうやって確保される
のだろうか?
きっと、利用者側が、まだ想像もしていない範囲で、
様々なリスクが想起されてくるだろう。

それを今、私は心配しているのである。


手話通訳者になっても、手話通訳の仕事だけで
生活してゆくのは、やはり厳しそうだ。

手話通訳者を目指す人たちには不都合な話
であるが、現実はこの通りである。
だから手話を捨てる手話通訳者がいても、
決してそれを非難できることではないだろう。

手話通訳を必要としている高齢者はまだまだいても、
その後のそうしたろう者の人口減少、また少子化や、
インテグレーション教育で手話を知らない若いろう者
(deaf)が増えるかもしれない。
そうなると、手話通訳の利用者はますます
減っていくかもしれない。

それに企業の国連・障害者権利条約対策は、
事務員兼手話通訳者の雇用に切り換えるとなると、
派遣センターへの依頼は増えないだろう。

そんな背景が、すでにやってきているのだ。
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by bunbun6610 | 2015-03-27 18:30 | 情報保障・通訳(就労)


ある聴覚障害者から見た世界


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