「聞こえない」と言えなかった頃の記憶 - 学校で

健聴者には、「聞こえる」か「聞こえない」の
二元論でしか、聴覚障害を識別できないらしい。
難聴の症状はほとんど知らず、無知に等しい。

私はあまりにも長い間、そのことを逆利用して、
やり過ごしすぎてしまっていた。


例えば、今からもう40年ほども昔の、私がまだ
小学生の時だ。

当時の小学校では、生徒数が1クラスで48~
53人ほどもいた。
授業前の出欠確認の時は、先生の声は聞こえ
ないか、聞こえたとしても誰を呼んでいるのか
わからない場合もあった。
だから私は、自分でその場をやり過ごす方法を
考えついた。

簡単に言えば、ごまかしていたのだが、
他人を騙そうという意図はなかったつもりだった。

聴覚障害ということも知らなかった私は、
集団社会の中でどう生きていったらよいのか、
自分なりに知恵を絞ってみたつもりだった。

心理研究でも明らかにされていると思うが、
こういう状況では自分も周囲と“同調”しなければ
ならない、という心理になり、己を曲げてしまう。

耳が不自由なのは私だけであっても、その異なる
人たちばかりの社会に溶け込まざるをえなかった。
いや、それは正確には、自己を埋没させるという
ことだったのだが。


考え出した方法の一つは、自分より5番ぐらい前の
生徒を、よく見ておく事だった。
その状況をジッと観察していて、自分の順番が
近づいてくるタイミングを、私は目で計測していたのだ。
私の目は音声情報を追尾するレーダーになっていた。

5番ぐらい前までの生徒までチェックしておくのは、
理由がある。

例えば、目印となってくれる生徒がいつも自分の近く
の席だとは限らない。
遠すぎたり、後頭部しか見えなくて状況がわかりづらい
場合もある。
私は、子どもが大きな声で返事をする時の、特有の
動きを見逃さないようにしていた。
頭部がわずかに上下するとか、顎や喉が動くとか、
である。
非常に疲れたが、それによく注意していれば、
一人や二人で読み取りに失敗した時でも、
その後にまだチャンスがあった。
レーダーはある程度の余裕があったほうが安心
できたからである。

後は、先生の口や動きに注意して、タイミングを読めば、
簡単にスルーできた。
小学校から高校まで、ずっとこの方法だった。

だから、学校の担任先生すらも、私の難聴をハッキリ
とは見抜けなかったのだろう。

けれども、クラスメイトにはそんなごまかしは完全に
見抜かれていた。
授業はごまかせても、一緒に遊んでいると「おかしい」
と誰もが気づくのだろう。
それにしても今さらながら、子どもの眼力には驚かされる。


私は、決して自慢話をしたくて、この話をしたのではない。
自分の難聴を大人が誰も理解してくれなくて、
仕方なくこうするより他になかった、悲しい事として
告白しているのである。

今さら恨み言なんか言っても仕方がない。
言ってみたところで、健聴者は誰も理解できはしない。

だがそれでも、自分が進んで告白することによって、
社会の問題点をあぶり出し、これからの聴覚障害者対応
に変化をもたらすことができれば、と思う。

この行為は“祈り”に近い。
[PR]
by bunbun6610 | 2015-02-03 18:30 | 難聴の記憶


ある聴覚障害者から見た世界


by bunbun6610

カテゴリ

全体
はじめての方へ
街風景
自然風景
祭典
動物
食べ物
食べ物(ラーメン編)
食べ物(カレー)
sweet
製菓の話
お酒
観光(北海道)
観光(関東)
観光(四国)
観光(中国)
観光(九州)


薔薇
紫陽花
聴覚障害
聴覚障害者心理
ろう者世界
難聴・中途失聴
難聴の記憶
手話
コミュニケーション能力
手話言語法
補聴器、福祉機器等
情報保障・通訳
情報保障・通訳(就労)
情報保障(テレビ字幕)
国連・障害者権利条約
社会
人権、差別
障害者問題・差別
原発問題
六本木ヒルズ回転ドア事故
バリア&バリアフリー
医療バリア&バリアフリー
障害者の経済学
運転免許制度への疑問
哀れみはいらない
だいじょうぶ3組
NHK大河ドラマ『花燃ゆ』
就職活動・離職
就労前の聴覚障害者問題A
就労後の聴覚障害者問題B
就労後の聴覚障害者問題C
就労後の聴覚障害者問題D
就労後の聴覚障害者問題E
就労後の聴覚障害者問題F
就労後の聴覚障害者問題G
就労後の聴覚障害者問題H
就労後の聴覚障害者問題M
就労後の聴覚障害者問題R
就労後の聴覚障害者問題Z1
職場の回想録
ブラック企業と障害者雇用
聴覚障害者版サムハル
Eテレ『バリバラ』
生活保護を考える
年金・無年金障害者の問題
人気記事(再掲)
雑談
未分類

以前の記事

2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 10月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月

フォロー中のブログ

おばば奇譚
ボーダーコリー モリーが行く!
但馬・写真日和
九州ロマンチック街道
東京雑派  TOKYO ...
大目に見てよ
Photo Galler...
おっちゃんの気まぐれ絵日記
松浦貴広のねんきんブログ
qoo's life
poiyoの野鳥を探しに

検索

タグ

(190)
(93)
(51)
(45)
(40)
(31)
(21)
(13)
(7)
(5)
(4)
(1)
(1)

ブログパーツ