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ある聴覚障害者から見た世界


by bunbun6610

心の叫び (1)手遅れになったろう者と、聴覚障害者労働問題

一般財団法人 全日本ろうあ連盟
創立60周年記念映画
  『ゆずり葉』



この映画のストーリーには、ろう者の実話も、
幾つか入っているという。

ろう者・敬一(庄崎隆志)の恋人・早苗(今井絵理子)
が倒れ、急いで病院まで運ぶシーンがある。
敬一は、電話が出来なかったためだ。

緊急時でも、聴覚障害者がコミュニケーション障害で
心配になることは、私も

『聴覚障害者への救急医療を考える 『命よりも大事なコミュニケーション』』
〔2014-10-07 18:30〕

で述べている。

ゆずり葉の、あのシーンでは

「もし、耳が聞こえていて、早く救急車を呼べたなら、
早苗の命は助かっていたのかもしれない」

と思わせるような物語だった。

早苗の両親も

「敬一のせいで、こんなことになったんだ」

とでも言いたげな様子だった。

このあたりは

『肉親の障害者差別』
〔2014-10-12 18:30〕


を読んでもわかるだろう。
だから誰だって、結婚に反対する。

それが“普通”だ。
“普通”とは、正しいとか悪いとかは関係なしに、
マジョリティ側の原理だ。

しかし、それが“世の光”であるとは限らない。
むしろ、それは闇だろう。
新約聖書にある、イエスを頑なに処刑させようとした
ユダヤ民衆のように。


25年ほど前の話である。
Sさんという、ろう者がいた。
Sさんと私は、手話サークルで出会った。

私はそこで手話を学んでいて、その頃はまだ手話が
ほとんどできなかった。
サークルの手話通訳学習は全くわからなかった。

しかし、ろう者にもそういう人が何人かいて、
そういう人たちは手話サークルの学習から離れていき、
お互いに「わからない者同士」として一緒になっていた。

Sさんの手話は、日本語対応手話ではなく、
日本手話だった。
それで、よけいにわからなかったのだが、
二人で対面式の会話をしたときだけは、
不思議と内容がわかった。

そのSさんが、急に入院してしまった、という。
Sさんは同じろう者の妻と、健聴の実母と、
コーダの息子さんと一緒に暮らしていた。

実母も息子さんも、手話ができるわけではなかった
らしいが、Sさんや奥さんの言いたいことは何となく
わかるらしかった。

Sさんが入院した理由は、胃潰瘍だった。
しかし、診断した時はすでに手遅れで、結局、
胃は全部切除した、という。
それから半年だか一年後に、Sさんは亡くなられた。

このような「手遅れだった」という話は、
昔のろう者の生活実態の中には、よくあったらしい。

今の若いろう者は、話せる人も多いようだから、
こういう悲劇は少なくなったのだろうが。

Sさんが手遅れになったのは、一体なぜだったの
だろうか。

Sさんはヘビースモーカーだった。
そして、手話サークルへ来ても、自分の居場所が
ないと思っていた感じがする。
いつもストレスを溜めていて、職場とかでの差別を
話していては、不満をぶちまけていた。
そういう性格だからなのか、家族の人すら、
相手にしたくなかったのではないか。

私はその頃、まだ若かったので、そういう不満を
真剣に考えることはなかった。
でも、40~50代になってくれば、会社の障害者差別
に対する怒りは、すさまじいものとなってくる。

それは心だけでなく、身体にも必ず悪影響を及ぼした。
これは経験しなければ、わからないことだろう。

男性の人生で、最も力を発揮し始める時期というのは、
おそらく40~50才代だろう。
しかし、その時期になっても、障害者はお荷物扱い
されてしまうのである。
ようやく人生の集大成をつくれる時期だというのに。
その怨念は、すさまじいものがある。

読者にも、私のこのブログを読んでいて、
それがわかるはずだ。


Sさんはなぜ、もっと早く病院へ行って、
診てもらわなかったのだろうか。

なぜ家族の誰も、もっと早く気づかなかったの
だろうか。
彼の心の叫びは、誰かに聞こえたか?
いや、聞かれなかったのではないだろうか?

この記憶も、私が『聴覚障害者の就労後問題』を書く、
大きな理由になっていると思う。

手話通訳は社会に広がりつつあるが、
この問題の解決はどうなのだろうか。

今時、死ぬ人はいなくなったのかもしれない。
しかし、心が立ち直れなくなってしまった人は、
きっといることだろう。
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by bunbun6610 | 2014-11-01 18:30 | 聴覚障害