聴覚障害者への救急医療を考える 『命よりも大事なコミュニケーション』

聴覚障害者への救急医療を考える

『命よりも大事なコミュニケーション』


ある日の朝、私は通勤電車の中で、つり革につかまって
立っていた。
突然、目がぐるぐると回り出した。
以前にも、こういうめまいがあり、同時に目の前が真っ暗
になったりしたが、数十秒間でおさまるので、年齢のせい
だと思っていた。
しかし、今度は違った。

目が回る症状は数分間続き、あまりの強さに、
立っていることができなくなった。
急に床に座り込んだ私に気づいた車掌さんは

「どうかしましたか?」
(あるいは「気分が悪くなりましたか?」)

というふうに、私に話しかけてきたので

「気分が悪くなったのです。
次の駅で降ろして下さい」

と言った。
それだけ言うのが、精一杯の危機的状況だった。

そして、その駅で降ろしてもらい、駅員室からの援助を
待った。
途中、その駅で電車待ちをしていた人も心配して話しかけ
てきた。
しかし、耳の聞こえない上、目も使えない状況では、
何を言っているのかわからないので

「私は耳が聞こえないのです」

とだけ言った。
そうすると、その人はすぐに立ち去った。
本当ならば、その場ですぐに

「○○をしてほしい」

と言うべき(助けを具体的に求めるべき)なのだが、
それを言うと健聴者は、次にまた声で話しかけて
きてしまう。
そして、どんどんわからなくなってしまうのは、
誤解を大きくすることがわかりきっていた。
だから、私の第一声はとにかく、自分の聴覚障害の
ことを知ってもらうことだった。

だが、それを聞いた健聴者は、どうしていいかわから
なくなってしまうのがほとんどなのである。
通勤中の人ばかりなのだから、立ち去ってしまう者もいる。
とっさに、紙とボールペンをカバンから出して、筆談を
始める人は、ごく稀である。

駅員さんが来ても、それは同じだった。
だがともかく、車掌さんが連絡してくれたおかげで、
降ろしてもらえた私は、まもなく駅務員さんたちに
かかえられた。
私は

「吐き気と便意がする。
すぐにトイレへ」

と言った。
片側を抱えられながら、何とか障害者用トイレに入ると、
立っていられない私はすぐに便座に座り込み、
排泄と嘔吐を続けた。
それも数分間続き、その後に身体全体から大量の汗が
出始めた。
そして、目も開けられなかった。
視界が回転してしまい、よけいに気分が悪くなる
からだった。

これはもう、すぐには回復しそうにないと思い、
トイレの中にある緊急呼び出しのヒモを引いた。
そして、駅務員が来ると

「救急車を呼んで下さい」

と言った。

実を言うと、その時は、自分の場合は通訳者を先に呼ぶ
べきか、それとも救急車を呼ぶべきなのか、かなり迷って
しまっていた。

常識的に考えれば、救急車が先だが、周囲の人と
コミュニケーションができないと、自分の知らぬ間に
医療ミスとかが起きたりしないか、心配したからだ。
だが、迷っているヒマもなくなったので、とにかく
救急車にした。

もし通訳を呼ぶとしても、目がぐるぐると回ったり暗く
なったりする状況では、手話通訳を読み取るのは
難しかった、と思う。
こんな場合はもう、要約筆記通訳や筆談にしてもらう
より他になかった。

筆談は紙の上に残るので、自分の症状をみながら読む
ことが出来る。
だから、こういう場合にはむしろ良かった。

救急車が来ると、救助員の人は慣れたもので、筆談はより
スムーズだった。
運ばれた病院でも、筆談で問題なかったが、なかには手話が
できる看護婦さんも一人いた。
だから、要約筆記通訳者を呼ぶ必要もなくなった。
そういう状況からも、病院の中と外とでは、えらい違いだった。

病室へ運ばれた後の血圧が190もあったので、
その時は確かに、危険な状態だった。

診察を受けて、脳梗塞か何かをチェックするための身体能力
の検査をしてもらったが、これが何も聞こえなくても、
また筆談もなくても、医師の指示が全部わかったので、
面白かった。

緊急時の場合のコミュニケーションにも、手話は役立つだろう。
医師をはじめとした医療関係者も、こうしたコミュニケーション
方法を自然に取り入れているのだろう。


このような体験をしたので、聴覚障害者は緊急時に備えて、
どうしておくべきなのかも、考えた。
例えば、自分の連絡カードを作って、常に保険証と共に携行
したらどうだろうか。

「耳が聞こえません。
手話または筆談でお願いします。」

などと書いておくと、万一、自分に意識がなくなった場合も、
それを確認してくれると思う。
また通訳者を直ちに呼ぶ連絡先(手話通訳等派遣センター)も、
書いておいたほうが安心
だ。
ただし、通訳者が来るまで時間がかかるが。

それでも、通訳者を呼ぶ連絡先も、あったほうがいいだろう。
病院で人手が足りない状況だったら、筆談に要する時間を
確保することは難しいかもしれないから。

障害者手帳だけでは、どんな配慮が必要なのか、他の人
にはわからない。
特に聴覚障害の場合は、なおさらのことではないだろうか。
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by bunbun6610 | 2014-10-07 18:30 | 医療バリア&バリアフリー


ある聴覚障害者から見た世界


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