職場内障害者授産施設 第二篇 (1)見えない障害

私の職場では、6月にAさんという障害者が退職した
ので、障害者は私しかいなくなっていた。
そこで、9月から新しく2人の障害者が配属されてきた。

一人は女性(Kさん)で、前任者の転属で欠員となって
いた事務補助を担当することになった。
もう一人が男性(Yさん)で、私と同じ仕事をすることに
なった。
Yさんが、Aさんの後継である。

私は先輩という立場になったのだが、初めは私が教える
のではなく、他部署(H部)で同じ仕事をしている障害者等
が、Yさんの指導にあたっていた。

なぜこうなったのかというと、聴覚障害者読者の方なら、
もうわかると思う。
やはり、聴覚障害者と健聴者は、障害者としては同じ
でも、コミュニケーション・トラブルが起きやすいものだ。
会社がそれを考慮してのことだろう、と思う。

Yさんはまだ仕事に慣れていない。
まだ新人なので、できる仕事がほとんどなかった。
そこである日、私の仕事にYさんも同行し、見習いの
ようにしてもらうことがあった。

それで、私も初めてYさんと話す機会があった。
私と同様に、Yさんも見た目は健常者と全く変わらない
障害者に見えた。
ただ、Yさんのほうが年上だ。


私;「何の障害ですか?」

Yさん;「え? あ、う~んと・・・」


こんな感じで、どうも自分の障害について、詳しく言い
たくないようだった。

私;「知的障害? 軽度の?」

Yさん;「・・・」
(胸を指差しして「ココが・・・」というジェスチャーをする)

私;「ああ、心の・・・精神障害か。
前にいた障害者も、そういう障害を持っていましたよ」

Yさん;「・・・」
(手話に近い身振りで「心/抑揚(浮沈)する」を表現)

私;「躁うつ病・・・。双極性障害か・・・。
前の人もそうだったみたいで、よく月曜日は休んでいましたよ」

Yさん;「毎週ですか?」

私;「そう。その時の調子によるが、ほとんど毎週でしたね」

Yさん;「(その障害者は)病院に行っていたんですか?」

私;「そうみたいだよ。本人はそう言っていました」

Yさん;「私は薬を飲んでいるので大丈夫です」

私;「Yさんも病院へは?」

Yさん;「月に一回だけです」

私;「でも、あまりストレスが溜まってしまうような仕事は
よくないみたいですね」


その後、Yさんの勤務状況を見ていた。
私の場合は入社後一週間だけ、先輩の同行(見習いのよう
なもの)をした後は、自分一人で業務をこなすようになっていた。

ところが、Yさんの場合は、二週間過ぎても三週間過ぎても、
なぜかH部の人に同行する業務が与えられていた。

それだけではない。
私が指導した簡単な雑用を一日で忘れてしまうので

「昨日教えたことはどうしたの? 忘れた?
メモはしているの?」

と何度も聞いていた。
すると、Yさんは慌てて自分のノートを開き、どこに何を
書いたか探すという有様だった。
その態度が何日経っても変わらなかった。
それだから毎朝、出勤したら何をするのかわかっていなくて、
ただイスに坐るだけだった。

「おかしいな」

と思っただけではない。

これには呆れてしまった。
が、周囲の健聴者は無視している。
Yさんはすでに、完全に「お客様扱い」されている。


「なるほど・・・。そういうことか」

私はYさんの重大な障害に気づいた。
Yさんの障害は、心の障害だけでなく、記憶障害も
あるわけだ。

私が

「いつから障害者になりましたか?」

と聞いたことがある。
Yさんは

「5年ぐらい前です」

と答えていた。
ということは、それまでは健常者だったのか?

いや、そうとは限らない。
障害者手帳を取得したのが5年前でも、
実際に障害があったのは、それよりずっと以前
の場合もあるのだ。
私がそうだったように。

これぐらい障害が軽度だと、自己認識も希薄だし、
何と言っても、周囲の人も気づくのが遅くなる。
そうなると当然、障害の認定も遅くなってしまう。
同時に、国の支援も手遅れになってしまったから、
こうなってしまったのだ。

健常者は

「軽度の障害なら大したことはない」

と思いがちだが、それがとんでもないことになる。
数々の累犯障害者の事例を見てもわかるはずだ。


『<累犯障害者>猶予中の犯罪、知的障害判明で再び猶予』
〔2014-09-16 20:38〕



さらにこれは、軽度難聴者にも似ているのだ。
Yさんの場合は表面上は、就職弱者にはなりにくい
ようだが、就労後にこういった問題に直面するタイプ
なのだ。

自動車事故などによる高次脳機能障害が原因で、
まず記憶障害などが起こり、それに悩んで精神障害も
誘発した可能性もある。

いずれにせよ、この記憶障害では、私と同レベルの仕事
をするのは無理だとわかった。

何しろ、自分のコンピュータのID、パスワードを打つ時にも、
メモ帳を繰り返し見ながら毎日やっているぐらいなのだから。

Eテレ『バリバラ』でも紹介されていたが、記憶障害は高次脳
機能障害者だけでなく、いろいろな障害者にもあるらしい。(※)



(※)〔関連記事〕

『NHK『バリバラ』 障害者の悩み -就労 (2)』
〔2013-04-30 18:00〕




このテレビ番組を観た人ならわかると思うが、この障害に
ついてはゲストの人にも、あまりいいアドバイスが出せなかった。

やはり、ごく単純な肉体労働(アルバイト)しか、できる仕事はない、
と思う。

工場の流れ作業も無理だ。
なぜなら、Yさんの場合、自分のペースでしか仕事ができないからだ。
そうした機械の側にいることすら危険だろう。
判断力なども著しく低いからだ。
何かちょっとでも違ってくると、Yさんがパニック状態に近くなってしまう。

ごく簡単な仕事を教えても、すぐ忘れてしまうのだから、教えるほうは
教える気がしなくなるのも、他の人が一緒に仕事をしたくなくなる理由だ。
Yさんはすぐに孤立するし、周囲の人も、相手にすると相当なストレス
になってくる。
Yさんがやらなければ、もう何か言うよりも先に、私が一人でやってしまう
ぐらいだ。

仕事を覚えるにも、Yさんのノートを見せてもらったら、何が書いてある
のかもよくわからない乱雑さで

「これでは教えたことを覚えるのは無理だ」

と思った。
頭脳は小学生以下かと疑うほどで、この人が元健常者とは到底、
思えなかった。
それにもかかわらず、自分のスマートフォンは器用に使いこなす。
この不思議さから

「コイツはただやる気がないだけのバカなのか?」


と思ってしまう。
だが、おそらくそうではない。
おそらく、複数の障害を持っているのだろう。
聴覚障害と同様、目に見えない副次障害を伴っていて、
それももうかなり長い障害歴なのだろう。
しかも最悪なことに、本人にその自覚はない。

やはりYさんは、記憶障害のことは入社前面接で、会社には
言わなかったのだろう。
自分の障害について、まだ何か隠していることは間違いなかった。
そうでもしなければ、会社もこんなズボラな人を採用してしまう
はずがない。

Yさんはいたって真面目な性格なので、不真面目にやっている
つもり(自覚)は全然ない。
だから、こういう問題点があることも、会社は面接段階では気づか
ないのだろう。


Yさんの特性を他にも述べると、次のようになる。
「→」は改善方法を考えてみた。


 ・自分から積極的に仕事をしない。

 ・自主性がなく、内気で引っ込み思案。

 ・自己判断力がない。

 ・記憶障害で諦めムードになっている。
  →忘れない工夫をしてもらう。テープに書いて、自分の手の
見えるところに貼っておくとか。

 ・2つ以上の指示をすると、一つは忘れてしまうことが多い。
 →指示は1つずつにする。

 ・1つの指示でも、あまり時間が経つと忘れてしまう。
だからすぐにやらせないと、忘れてしまう。
 →その仕事の指示は、必ずやる時にする。
曖昧な指示や、「後でやって下さい」「明日の朝、やって下さい」
と言うのは禁物。

 ・臨機応変にはできない。事象・物事の変化に弱い。

 ・教えた仕事のうちでも、特に雑用はほとんどやろうとしない。
言われないとやらない。


Yさんには

「自分は周囲に甘えている」

という認識はない。
それでも、この結果を見た周囲の人は、誰もYさんを相手にしなくなる。

こうして、職場内障害者授産施設になるのだ。

 障害者雇用 = 職場内障害者授産施設 = 障害者天国

ではない。
周囲の健常者にも責任がある。



『【障害者雇用推進月間特集】応募前に知っておきたいこと』
〔2014-09-12 19:00〕

『6.応募書類の生かし方』
〔近年の障害者求人票の特徴〕を参照。



で、詳しく述べているが、障害の種別や等級を気にして選考する
企業が増えているようだ。
要するに、障害者のデメリット面をほじぐっているのだ。

しかし、手帳に示されている障害の種別や等級だけで障害者の
特性や能力を判断すると、こういう失敗に陥ることになる。

この事例だけでも十分わかるように、実際は私のほうが重度の
障害者に認定されているにもかかわらず、仕事をする能力は
私のほうが圧倒的に上なのである。

逆に言うと、こうしたケースの場合では、Yさんの障害の等級
には、疑問があると言わざるをえない。
社会が本当に障害を克服するには、障害というものについての
見方を変えることが必要不可欠だ。
障害というものについて、医学的モデルと社会的モデルとに
分けて考えなければならないのである。


「Yさんのような人にはジョブコーチをつけたらどうか?」

とも思った。
しかし、そもそも、会社が認めないだろう。

仮に認めるとしても、Yさんがそれを望まないことも十分にありうる。
なぜなら、それが元で、ジョブコーチが自分の障害について、
会社にあまり詳しく説明してしまわれたりでもしたら、
自分の希望が叶えられなくなってしまうのではないか、
という不安が起きる。
そうやって障害に配慮してもらうということは、逆の面では差別を
受け入れなければならない、ということでもあるからだ。
配慮と差別は紙一重だ。
健常者は障害者に対し、配慮よりも差別をしてしまいやすい。


任されている仕事は、私のほうが複雑な業務が多く、量も多い。
だから必然的に、Yさんへはそういった仕事は振られなくなる。
そういった状況からも、Yさんは能力的に信頼されていないとわかる。
だからYさんはいつまで経ってもH部の補助員のまままなのだ。
Yさんへの配慮と考えれば、Yさんにとっては楽だろうが、反対に、
私にはかなりの負担がかかってしまっている。

Yさんの場合、身体は健常者と同じであっても、記憶障害が著しい
ため、フルタイムで働くだけの能力はない。
そんな障害者とフルタイムで契約して、会社に一体、何のトクが
あるのだろうか。

「この障害だったら、この障害者をここへ配属したのは失敗だったな」

と思った。

他部署の人と私とでは、やり方も教え方も違う。
健常者でもそれに合わせるのは大変なのに、単純な仕事も覚えられ
ない障害者が、その板ばさみにあって、仕事を覚えられるわけがない
だろう。

就職弱者になった、グレーゾーン障害者が、障害者枠雇用に紛れ
込んでいるのだろうか?

障害者になったから能力がなくなったのではなくて、能力がないから
障害者になったのだろうか?

そんな疑問すら起きた。

その後、Yさんに何度か聞いてみたところ、やっと「精神障害者手帳3級」
と判明した。
Yさんは3級の福祉支援の内容(あるいは障害認定の判定)に、
不満を漏らしていたが。

続きについては、また後に述べることにする。
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by bunbun6610 | 2014-09-23 18:30 | E.大手カー・ディーラー
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ある聴覚障害者から見た世界


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