ろう者による接客

ある新聞を読んでいたら、興味深い記事が見つかった。
以下に、その一部を抜粋する。


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「吉野家がレジにこだわる理由はお客様とのコミュニケーション
だという。
注文を受ける際と支払の際、お客様と二度の接点を持てるという
それだけのこと。
しかしファストフードでは少ない瞬間をあえて演出し、ほんの少し
でもお客様との会話の時間を得ている。
もっともそのことをしっかり理解してお客様との貴重な接点を
有効に活用している店舗はあまりお目にかからないのだが・・・。」


「お客様とのつながりを大切に考える企業は、お客様との接点と
なり得るところで、むやみに人の手を省いてしまうことはしないのだ。」


「営業マンが集めた顧客情報をパソコンに入力し、店舗全体で誰が
見てもわかるように共有化する。
各社が取り入れる顧客管理システムだ。
その善し悪しは別として、本来自分たちで管理すべきことがますます
自分たちの手から離れてしまっているように感じる。
それらは行き過ぎると、効率化という大義名分により手抜きの助長
になっているように私の目には映る。」


「吉野家のような外食産業でさえお客様との接点を考えて効率の
良い券売機を敬遠する。
我々は何に効率を求めて何に温もりを残そうとしているのだろうか。
時々店舗へ行ってよくわからなくなることがある。
願わくば小売業にとって大切なことは普遍的であってほしいと思う
ばかりだ。」


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こういうところを読んで、吉祥寺のカフェ(※1)を思い出した。


(※1)
『心で会話するカフェ、聴覚障害者が接待…東京・吉祥寺』
〔2012-02-28 20:02〕




ろう者にも接客の仕事を与えているお店は、幾つかはある。


〔洋菓子店「ラポート」、スターバックスやユニクロ
などの聴覚障害者雇用事例〕



『『障害者雇用の成功事例』(2006年5月)より』
〔2012-11-03 18:00〕


『合理的配慮と理解で、障害者の雇用促進を』
〔2011-12-07 20:48〕



ある駅ビル地下の販売店は、タッチパネル式の
注文表を使っているらしい。
しかし、吉祥寺のカフェでは、あえてそういった
便利なバリアフリー機器は導入せず、
聴覚障害を持つ店員と健聴者との、
ナマのコミュニケーションを重視するらしい。

最近は健聴者でも、お客様とのコミュニケーション
をわずらわしく感じているような素振りを見せる
場合もある。
店としては、最新機器を導入するほうが効率が
良く、それを「バリアフリーだ」とする人も増えた。

しかし、本当はそうではないだろう。
おそらく、聴覚障害者のほうは、それが便利だ、
面倒でなくていい、と思う人もいるとしても、
それが真のバリアフリーだなどとは、
思っていないだろう。
喜んでいても、心から喜んでいるのではない、
と思う。
ハード(機器等)のバリアフリーとソフト(心)の
バリアフリーは、なかなか両立しづらいものだ。


以前に、聴覚障害者を積極的に雇用していた
レストランで働いたことがある。
そこでは、優秀なろう者が働いていた、
と後で聞かされた。(※2)


(※2)
『優秀なろう者が辞めたのはなぜ?』
〔2013-06-01 18:00〕



そのろう者は、お客様とコミュニケーションを
取るために、メモ用紙とペンだけでなく、
自主制作した会話カードを持っていたらしい。
そのカードをお客様に見せて、コミュニケーション
をはかろうとしていたらしい。

おそらく


「いらっしゃいませ」

「お荷物をこちらでお預かり致しましょうか?」

「ご注文はお決まりですか?」

「メイン料理は、お肉とお魚の、どちらに致しますか?」

「お酒はいかがですか?」

「デザートはどれに致しますか?」

「コーヒーと紅茶の、どちらに致しますか?」

「ありがとうございました。
是非、またお越しくださいませ」


などではないだろうか、と思う。

ろう者は声があまりに奇妙な人もいる。
それで

「レストランの中では、やはりこういう方法がいい」

と考えたのかもしれない。

そのことを、後輩のろう者Nさんに話した。

しばらくすると、Nさんもそれを用意するようになった。
Nさんが製作した会話カードは、短文とイラストが
あって、なかなか見栄えもよいものに思えた。

実際にこの方法で接客をしている人は、
まだ見たことがないが、やってみたらどうだろうか。

しかし、会話カードよりも手話のほうが、
やはりろう者の気持ちがよく伝わるだろう、と思う。
まず手話でやってみて、それで通じなかったら
カードを見せればよいのかも。

それでよいかどうかは、まだわからないが。


けれども、それでも

「お客様から注文を取る仕事はできなかった」

という。
その理由は聞いていないので、私は知らない。
なぜだろうか?

やはり、健聴者から見ると、聞こえない人では
ダメなのだろうか?



吉祥寺のカフェでは、最初から、ろう者と健聴者
との間にある壁を、打ち破ろうとした試みだった
らしい。

手話や、筆談とかで、お互いに通じる方法で
コミュニケーションをしていた、ということだろう。
それはちょうど、ドイツみたいな考え方と同じ
かもしれない。
「お客様と私(店員)は、対等関係」――。

日本はそうではなくて

「お客様は神様」

として扱わなければならず、ろう者の接客係は
タブーなのだろう。


それでも、もし本当にろう者の立場であっても、
その役割を与えられたならば、どのように
コミュニケーションをするだろうか。

どのようにして、その接客業務を自分も楽しみ、
そして、お客様を喜ばせるだろうか。
働く前に、それをしっかりとイメージしていなけれ
ばならない。

そして、イメージを現実に変える実行力、
創造力を持っている必要がある。


昔、ろう者が経営していたという喫茶店があった。
そのお店は、残念ながら数年で閉店したそうだ。

そのお店に関する噂を、健聴者から聞いた
ことがある。

大雑把にしか書けないが、次のようになる。


健聴者;「ねえねえ、●●区にあった、ろう者の
喫茶店って、知ってる?
あの店、潰れたんだってさー」

私;「へぇー。そういう店ができたっていう事は、
僕も知ったところだったけど」

健聴者;「何で潰れたかわかる?
あそこは、健聴者のお客さんに
『手話を使って下さい』
と強要したからなんだよ。
だって、手話がわかる健聴者なんて、
ほとんどいないでしょ?
それで、どうやってコミュニケーションを
するんだい?
だから、あの店には、健聴者のお客さんが
来なくなってしまったんだよ」

私;「ふーん・・・。なるほど」


この噂の真偽は、私もどうなのか全く知らない。
しかし、真偽がどちらにしろ、こういう噂が
広まってしまったら、そのお店はどうなるか、
想像に難くはないだろう。
この話を思い出したら、ちょうど、
Social Café- Sign with Me(※3)
も思い出した。


(※3)
『ろう者スタッフによるカフェ運営(東京都文京区本郷)』
〔2012-02-01 20:27〕


Social Café- Sign with Meの場合は、
手話か、書記日本語(筆談)によるコミュニケーション
を基本としていて、手話を強制した、という話は
聞かない。
あの雰囲気だと、わざわざ

「(コミュニケーション方法は)●●でして下さい」

と頼まなくても、お客さんのほうもどうすれば
いいのか、自然にわかってくるのかもしれない。
インターネットでの評判を見て行った人は、
手話があるとか、ろう者スタッフがいるとか、
巨大な筆談ボードがあるとわかっていて行く
だろうけど、知らない人はその場で、
自分で考えたりするのだろう。

ろう者オーナーシェフの串揚げ店『ふさお』(※4)
に行ったときも、特に言われたことは
何もなかった。

(※4)
『串揚げ居酒屋「ふさお」
|つたわるねっと【ダブル・ピー株式会社】』




ろう者のスタッフがメニューを持ってきて、
すぐ行ってしまう。
声をかけても店員にはわからないから、
手を挙げて振って、スタッフを呼ぶ。
それからメニューを指差しして、注文した。
ただ、それだけのことで済んだ。

欲を言えば「ふさお」の場合、筆談用具とかも
ないので、あったほうが良かったんじゃないか、
とも思った。

その点、Social Café- Sign with Meは
完備してある・・・と言いたいところだが、
片側の壁だけだから、離れた席でも筆談したい
場合は、やっぱりお客さんが自分で紙とペンを
持ち出さなくてはならない。

手話が早くて便利という、手話優先の環境
イメージは、どうしてもある。

そういう点をもっと考える必要があるのではないか、
と思うし、そういったコミュニケーション方法でも、
お客様に喜んでもらえるにはどうしたらよいかも、
諦めたり割り切ったりせずに、考えてみたいものだ。

でも、もしあの噂がデタラメだったとしたら、
何でそういう噂ができて、広まったのだろうか。
悪意ある人、あるいは誤解した健聴者が、
口で言い広めたことは、ろう者にはわからないので、
対処のしようがない。

自分の店の周辺に音声だけのデマが広がって
いったとしても、ろう者にはどうしようもなかっただろう。
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by bunbun6610 | 2014-10-18 18:30 | 聴覚障害者版サムハル
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