『間違いだらけの生活保護バッシング』(生活保護問題対策全国会議/編者)(4/5)

『間違いだらけの生活保護バッシング』
(生活保護問題対策全国会議/編者
 2012年8月20日/初版第1刷発行
 株式会社明石書店/発行所)




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第3章 マスコミによる生活保護報道の問題点
「生活保護でよく問題となるのが「濫給」と「漏給」という二つです。
濫給は、本来、受ける資格のない人が受けているケースで、
不正受給が典型です。
他方、受ける資格があるのに受けていないケースを漏給と呼びます。

私が生活保護の報道に関わったきっかけは、漏給の事件でした。
1987年、札幌市白石区で母子家庭の母親が3人の子どもを
遺して餓死。
母親はパート労働の掛け持ちで体調を崩した後に区役所を訪れて
いました。

「生活保護を頼んだが断られた」

「怖い目に遭った。
二度と行きたくない」

などと周囲に漏らしていたのですが、申請書を書かせてもらって
いません。
今で言う「水際作戦」の典型的なケースです。

当時、私は地元テレビ局の記者でしたが、生活保護に関する
体験談を募集したところ、涙ながらの電話が相次ぎました。
母子家庭の母親が生活に困って福祉事務所を訪れても

「女だったら体を売ってでも働け」

「(離婚した場合には)別れた夫に土下座して復縁してもらえ」

などと言われ、やはり申請書を書かせてもらえなかったという
ケースが次々明らかになりました。

地方の記者だった私は、行政だけでなくマスコミの報道に疑問を
感じ、従来の生活保護についての報道を調べてみました。
驚いたことに圧倒的に「不正受給」に関するものでした。
少し前は臨時行革で「自立自助」が政府・財界の合い言葉で
生活保護が標的でした。
当時の大蔵省、行政管理庁、厚生省、各自治体などが、
「不正受給」調査を繰り返し、「不正受給額 過去最高**億円」
と記者クラブ経由の発表を繰り返し、結果として、生活保護は
「不正受給」の官製記事ばかりが流されていました。

一方、漏給はほとんど報道されません。
多くの研究者が漏給は受給者数の4、5倍程度と推定しています。
漏給が多いことは福祉のあり方としてセーフティーネット機能が
弱いことを意味し、欧米に比べ、漏給の割合が飛び抜けて高い
ことが研究者の間で問題視されてきました。

しかし政府や自治体が調査や公表に消極的なため、本当の実態
はよくわからず報道もされないという構図があるのです。

漏給が多い理由のひとつが「水際作戦」です。
職員が「まだ働ける」「親族に面倒みてもらえ」などと言って、
申請させないようにします。
受給している人にも辞退届を書かせて支給を打ち切ります。
「こんな惨めな思いをするなら切られた方がまし」と思わせた
あげくに。
漏給の人たちは役所側が意図する形で「作られる」のです。

札幌母親餓死事件を報道した後、私はロンドン特派員を4年間
ほど務めました。
イギリスの生活保護報道は、濫給だけでなく、漏給についても
時間がさかれていることを知り、驚きました。
漏給を報道するのは、信頼すべき研究機関が実態調査している
という環境の違いもありますが、公平な報道のために漏給も
報道するというメディアの姿勢は明確でした。」(P70~72)


『報道がもつ加害性とは』
今回の一連の報道では、漏給をどうするのか、という本質的な点
を問うものはわずかです。
生活保護制度には改善すべき点があることは筆者も異論はありま
せんが、「不正受給が多い」という観点だけで捉えて報じるのは
問題の一面だけをみる「間違い」だと考えます。

間違っているばかりか、報道がスティグマ形成に寄与するという
「加害性」も伴っています。
生活保護を受けるのはずるい人、だらしない人というスティグマが
メディアによって「作られる」のです。
世間の目を厳しいものにさせ、当事者を萎縮させ、制度の利用
から遠ざけます。

「不正受給ではないかと疑いの眼で見られ、容疑者みたいに
扱われる。
近所の人にも監視され密告される」

と受給者の声を聞きます。
冷静に考えると福祉制度を利用するだけでスティグマにさらされる
国とは一体どういう国なのでしょうか。

稼動年齢層の受給者が働けない理由には、低学歴や労働経験の
欠如、知的・精神などの障害、アルコールやギャンブル等への
依存症、家族との断絶、意欲や金銭感覚の喪失など、いろいろな
問題が絡み合います。
俗に言う「貧すれば鈍す」で、社会規範やマナーから見れば
「だらしない」と見えるケースもあります。
それをどうやって社会で包摂し、社会全体をより安定したものに
するかを議論すべきですが、報道も「だらしなさ」をあげつらい、
けしからん、救うべきでないなど一刀両断で切り捨てて終わって
います。
それでは問題は解決しません。
餓死者や自殺者、犯罪者を増やすだけです。」(P72~73)


「生活保護受給者の自殺率は、平均の2倍以上の高さです。
それなのに偏見や無理解を拡大する報道はタガが外れたように
垂れ流しです。
あるワイドショーは、生活保護の「エピソード」を視聴者から集めて
紹介しました。

「生活保護を受給する家の中学生が、遅刻するからとタクシーを
使っていた」

「母親の服装が派手だった」

「家をリフォームしていた」

など。
どれも報道として「ウラを取ってない情報」です。
通報した人が言っているだけで事実かどうか確認していません。
噂話を公共の電波に載せたのと同じ悪質さです。
けっきょく、これらの報道が、生活保護を受けるべき人を制度から
遠ざけるという状況を生んでいます。

以前、取材したシングルマザー。
所持金がなくなって福祉事務所を訪れた際、職員から、本気で働く
気があればどんな仕事でも見つかるはず、と説教されたあげく
申請書は渡されずじまい。

「あんなに人間扱いされないなら、死んだ方がまし」

と二度と行っていません。
生活保護を受けようとするとスティグマにまみれ、自尊心が傷つけ
られる。
受けている間も

「こんな屈辱的な生活はもうたくさん」

と思わせ、状況が改善していないのに辞退届を書かされて無理
に打ち切られる。
水際作戦も辞退届の強要も、スティグマが根深いからこそ、役所側
の思う通りに誘導されてしまうのです。

イギリスに駐在していた頃、生活保護を受ける30代のシングルマザー
を取材しました。
彼女は子育て以外の空き時間に、独居老人の話し相手をする
ボランティアをしていました。

「困っている間は制度に助けてもらうけど、働くようになったら私が
税金を払う方になる。
お互いさまよ」。

そんなふうに胸を張り、生き生きと活動に精を出していました。
制度の利用者が卑屈な思いをせずお互いさまと言えるのが、本来の
セーフティーネット。
しかし、日本では事態はいま反対方向へ進んでいます。

政治家の発言を聞く限り、自民党、民主党、大阪維新の会などは
生活保護制度の抜本的な改革が必要という認識で共通している
ようです。
一体いつの間に「抜本改革」まで進んだのでしょう?
多くの国民には寝耳に水のはずです。
メディアが作り上げた「ムード」以外に理由は見あたりません。」
(P74~75)


『小さな声は聞こえなくなるばかりか』
6月下旬、東大阪市の職員30人の親族が、生活保護を受給して
いたと新聞報道されました。
うち1人をのぞく職員が親や子、兄弟姉妹に関し「扶養できない」
と回答し、平均年収700万円の公務員がなぜ仕送りもできない
のかとテレビで糾弾されました。
全国最多の受給者がいる大阪市も受給者親族の収入を調査
すると発表しました。
扶養義務を果たせ、という論調一辺倒ですが、冷静に見渡せば、
欧米諸国で成人間の扶養義務を強化している国はありません。
扶養義務は夫婦間と親の未成熟な子に対する義務に限定する
のが国際的な流れです。
個人主義が進む現代社会で扶養義務を強化させるのは前の時代
への逆行なのに、芸能人なら、公務員なら、扶養できる「はず」と
メディアが批判を強め、スティグマをあおり立てます。
受給者やその肉親に「監視する」「密告する」と無言で脅しながら。

ある民放報道番組で出演者が

「生活保護を受けることは恥ずかしいことだという原点を忘れている」

と発言しました。

「生活保護を受けるのは恥ずかしいこと」

という価値観を押しつける報道です。

戦後に誕生者生活保護法は、憲法25条にもとづき、伝統的な

「恩恵的に賦与するもの」

「恥ずかしいもの」

という受給観を転換して、「権利」として位置づけました。
ヨーロッパ諸国でも、生活保護については、恥の概念と無縁な
権利として定着しています。

ところが、日本では生活保護に対する偏見や無理解が根強い
上に、さらに親族の扶養義務強化という形で、肉親に押しつける
構図に逆戻り。
肉親もスティグマを持て、といわんばかりの報道が続いています。

別の民放ワイドショーではコメンテーターが

「受け取る側のモラルも問題だ」

「安易に受け取らないモラルが必要」

と発言。
受給の問題が法律にある権利ではなくモラルの問題にすり替えられ
ています。
受け取らないことが美徳という押しつけ。
法律上は生活保護の受給資格ありと判定されるケースにも

「安易に受けとらない」

ことをテレビが求めるのです。
そんな報道の「加害性」は深刻です。
行き着く先は、餓死か。自殺か。犯罪か。
スティグマが報道で作り出されることにマスコミはあまりに無自覚です。
・・・(中略)・・・
ジャーナリズムの大切な機能のひとつに

「声なき声に耳を澄ませる」

という役割があったはず。
しかし、冷静さを失った報道はスティグマを再生産し、モラルを強調し、
差別的な監視をあおり立てます。
スティグマを生むような報道が続く現状では、「小さな声」は社会の中
でますます聞こえなくなるばかりです。」(P75~76)


生活保護緊急相談ダイヤル 相談事例(抜粋、2010年6月9日実施)
(P86~91)

「(1)被災し、岩手県に避難。息子と2人暮らし。
息子の就労収入は、それほど多いものではない。
生活保護の申請に行ったが、
「保護を受けてもほとんど保護費が出ないから」
と申請をさせてもらえなかった。
息子の通勤のためのガソリン代がかかるほか、自分の膠原病治療
のためのタクシー代が払えず、通院できない状態にある。」(P86)


「(2)生活保護の相談に行ったところ、20年以上前に別れた妻
のところに置いてきた娘(別れたときは2歳くらい)の「承諾書」を
取って来るように言われた。
遠方まで会いに行ってみたが、「承諾書」は取れなかった。
仮に生活保護を受けられるとしても、毎年のように娘のところに
照会が行くとしたら迷惑だろうから、申請をするかどうか、悩む。」
(P86)


「(3)幼児の頃から両親から虐待を受けていた。現在は両親とは
交流がない。
今、両親は生活保護を受給中だが、法律が変わり私たち夫婦が
扶養しなければいけないのか?」(P86)


「(8)障害年金の額が下がった。・・・77歳の母が近所にいる。
2ヵ月に一度くらい福祉事務所に行くが、生活保護の申請は
できなかった。
身内に援助してもらえと言われる。」(P86)


「(11)母子家庭で頑張っていたが、娘とともに体調を悪くして
2~3年前に生活保護を受給することになった。
訪問介護の仕事で収入を得ながら受給。
現在仕事もなく体調がさらに悪いので、病院で治療中。
役所のケースワーカーは定期的に来て、「働け、働け」と追い
つめるよう言う。
病院に行っているというと、確かめるという。」(P87)


「(20)病気で就労が厳しくなったので、掛け持ちパートが
できなくなり生活保護を受けた。
現在受給中。
開始前の相談段階の相談員には詐病扱いされた。
申請前の1ヵ月の出納帳をつけさせられ、誤差(間違い)を訂正
させられ問い詰められた。
わずかない誤差が出れば、パチンコをやっていると問い詰められ、
つらい。」(P88)


「(31)市役所で、過去に受給したことがある人は再度の利用は
難しいと説明された。」(P88)


「(35)芸能人の母の生活保護のマスコミ報道がひどくテレビが
見られなくなった。
どうしようもなくつらい。
医者から「君はどうなんだ」と言われる。
薬が増え、夜も眠れなくなった。
体調が悪い。
死んでしまいたい。
現物支給は差別だ。」(P88)


「(40)生保受給中の50代女性。
申請時、窓口で「女なら他に仕事がある」と言われたり、
人間性を否定されるような扱いを受けた。
先月も80歳になる亡母の姉に扶養照会がされた。
不正受給のバッシングをしている国会議員やテレビコメンテーター
は受給者の実情を何も知らないのではないか。
食品が現物支給になれば、その日の体調によっては摂食できない
こともあることなど、全く想像できないのだろう。」(P89)


「(48)60代男性。
自分と妻の年金とパート収入をあわせて月12万円で生活している。
妻が働けなくなったら保護申請しようと思うが、娘の婿にだけは
知られたくない。
娘が恥をかく。そこそこ収入があるなら親兄弟をみるのは当然と
言われても、皆、夢があって働いているのだから、そこに無理難題
を言っていくくらいなら死んだ方がましだ。
また、現在、自分の実父が月3.5万円の年金だけで1人で生活
しており、他の兄弟が父に生活保護を受給させるのは子の恥だと
言うので月5000円ずつの仕送りを強いられているが、正直な
ところ自分は仕送りするのはかなりきつい。
ただ、自分の事例が「こんなふうにほかの人も頑張れ」というふう
に利用されることだけは絶対にあってほしくない。」(P90)


上の相談者の声を見ると、ビクビクしながら生活している、
という感じだった。





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by bunbun6610 | 2014-03-09 18:30 | 生活保護を考える


ある聴覚障害者から見た世界


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