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蒼穹 -そうきゅう-

面接で聴覚障害者が落ちた例 - M社の場合

ハローワークの障害者雇用枠でM社に応募した
ときのことである。
仕事の内容は、M社の管理するビル内の
清掃作業だった。

まずハローワークの窓口で、聴覚障害者の
応募可否を確認してもらったら、OKだった。
そして、履歴書、職務経歴書、障害者手帳のコピー、
ハローワークの紹介状の書類4点を郵送したところ、
この書類選考でもOKで、面接に呼ばれることに
なった。

面接会場に行くと、M社の課長級と思われる人と、
もう一人がいた。
そのときの応募者は、私を含めて3人だった。

障害者雇用枠なのだから、全員障害者だという
ことはわかるが、書類選考に残った障害者は3人
だったというわけだ。
採用者数は1名だけなので、この最終選考でも2名
が落ちるというわけだ。

他の応募者は、2人とも50才代で、一人は男性、
もう一人は女性で、健聴者のようだった。
一人ずつ順番に、個別面接を行っていて、
最後が私だった。
他の人の面接状況は、もちろんわからない。

私のときは、呼ばれて個室へ入室したら、
まず履歴書などに記載した内容の確認から
始まった。
私は聞こえなかったが、面接のパターンは
知っているので「はい」「そうです」などと、
真面目にうなずいてやり過ごした。

その流れの中で、やはり聴覚障害についても、
聞かれるようになった。

「今、聞こえますか?」

すでに両耳に補聴器をつけていた私は、
この質問には、もう障害者雇用なので、
正直に答えた。

「今は、静かな密室の中で1対1での会話なので、
音は聞こえます。
ですが、話し言葉までは聞き取れません」

すると、面接官のほうは急に表情が曇り始めて
きたことがわかった。
あとは、私が質問を聞き取れないときは、
簡単な筆談も交えてくれるようになった。

質問は

「志望動機は?」

「ここまでの通勤方法と所要時間は?」
(「これから通勤し続けるのは大丈夫か?」
という意味で質問している、と思う)

「あなたが今までやってきた仕事と、ここでの
仕事は違うけど、やってゆけますか?」

といったことだった。

そして最後に、広い部屋に移動し

「その掃除機を自分でかけてみてくれ」

と言われたので、やってみた。
そして、しばらくしたら、面接官が私の身体に
触れ

「はい、終わりです」

というジェスチャーを表した。
面接は、それで終わりだった。

その日から約1週間後に「不採用」の結果通知
が届いた。

あの掃除機をかけさせられた意味は

「掃除中の騒音で話しかけられても聴こえるか?」

というテストだったのだ。
私は、納得できなかった。

なぜ会社は聴覚障害者だとわかっていながら、
あのような面接、聴力テストまで実施したのだろうか?

この会社の聴覚障害者についての知識は、
おかしいのだろうか?

あるいは、障害者雇用のつもりではないのだろうか?

ずっと後になって、そのときの面接で採用になった人が、
誰なのかもわかった。
一緒に面接を受けていたおばさんだったのである。

確かに、その人は障害が軽そうだったし、
もう一人の別の応募者よりは、安心して仕事を
任せられそうにも見えた。

しかし、それでも、音が聞こえない、という弱点を
除けば、全ての点において、自分のほうが優れて
いる、と自信を持っていたので、この結果には
納得できなかった。

この会社は

「聴覚障害者でも、健聴者とさほど聴力が
変わらない障害者ならば採用したい」

と思っていたのだろう。

だが、そういう人はおそらく、障害者手帳も
もらえない軽度難聴者くらいしか、
いないのではないだろうか。

もう一つ疑問に思えたのは、この会社では
聴覚障害者への、正しい対応がわかっていない
ということである。
それで会社も障害者も、双方が損をしてしまって
いる場合もあるのではないだろうか。

企業の「就職差別」、そして障害者の「就職弱者」
が起きる、きわめて初歩的な原因がここにある。

面接官が聴力のテストをしたとき、わたしの
そばにいたのを憶えている。
そばにいたのならば、方法を変えて呼ぶなり、
コミュニケーションをはかるなりしてみれば
よいことだ。

例えば、私の肩を軽く叩いてみるとか、離れて
いても聴覚障害者の視界に入って手招きして
みるとかすればよい。
やってみれば、結構いろいろな方法で可能だと
いうことに気づくはずだ。
そして、掃除機をいったん止めてから会話すれば、
聞こえる聴覚障害者だっている。
筆談なら確実だ。

そもそも、掃除がほとんどの仕事に、このような
テストが本当にそんなに大事だろうか。
安全の問題と思っているのかもしれないが、
部屋の中で人が掃除機をかける仕事をするのに、
危険性があるのだろうか。

ただ、もしもお客様(入居者)に気がつかずに、
掃除を止めなかったら、まずいということはあるだろう。
接客業務だったら、このような理由で、
まず聴覚障害者は採用されない。
しかしそれは、社会の側に、聴覚障害者に対する
理解や配慮がないからであって、それが理由で

「障害者に職域差別をしてもいい」

ということにはならない。
そんなこともわからないで、障害者雇用の面接を
しているなんて、健聴者はバカなんじゃないだろうか。
それとも、ただの無知だろうか?
「合理的配慮」という言葉の意味だって、知らないだろう。
中学校からやり直したらどうなんだ?

ともかく、健聴者がこんなふうで、聴覚障害者は
これほどの就職差別を受けているのだ。

全く、信じられないことではないか。
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by bunbun6610 | 2013-12-16 18:00 | 就労前の聴覚障害者問題A