聴覚障害者の会話予測・推測能力



副題;『難聴者・中途失聴者が、健聴者からよく誤解されること

 ―「(健聴者の)聞こえないふり」と「(聴覚障害者の)聞こえなくてもわかる」
ということの違いについて』


健聴者は「聞いていないふり」だけでなく、
「聞こえないふり」もできるのだろうか。

しかし聴覚障害者は「聞こえない」「聞き取れない」といったことも
実際に多いのだから、そういう場合には

「聞こえないふりをしている」

はないだろう。
ところが、健聴者が聴覚障害者を誤解している場合には、
そのようなこともしばしば起きる。

聴覚障害者は健聴者から「聞こえないふり」をしている、
と疑われることがあります。
圧倒的に多いと思われるのが、難聴者や中途失聴者など、
後天性の聴覚障害者ではないでしょうか。

難聴者や中途失聴者は、自分で話すことは健聴者と
同様にできる。
しかし、相手の話を聞き取ることは難しい。
しかも中途失聴者の場合は、難聴者としばしば混同されてしまう。


「ろう者の声はおかしいが、難聴者や中途失聴者の
声は健聴者と同じじゃないか。
なぜなんだ?」

というのが、健聴者の言い分だ。

難聴者の中には、

「就職できず困っているから、障害者手帳を取得したい」

と考える難聴者もいるらしい。

就職に不利となるためもあってか、
難聴者も「障害者」と呼ばれることに対する抵抗感が、
昔ほどではなくなってきたのかもしれない。


昔は、1回だけの聴力検査で判定結果が出されていました。
つまり、検査は1日で終わりだった。
判定通知・認定は1ヵ月後くらいだったと思う。

ところが近年では、3回、あるいはそれ以上も検査を受けさせ
られる難聴者もいるらしい。

これは、難聴者から実際に聞いた話です。
つまり、認定には早くても数ヶ月かかるようになった、
ということだ。

この事実からわかるように、認定のための検査が厳しくなったようだ、
と思える。
これは当たり前だと思うけれども、以前と比べたら、
そういうふうに思えてしまう。

それがおそらく、聴覚障害の偽装事件の影響なのかもしれない。

生活保護受給の申請者が、申請がなかなか通らずに困るのと同じだ。
本来は受給できる人が、役所の水際作戦などで受給できないことを
「漏給」というのだそうだ。

難聴だと、就職できない人もいる。
仕事ができないというわけではないが、特に企業側に「就職差別」があり、
それで難聴者が「就職弱者」になってしまっているのは事実だ。
それで生活保護を申請せざるをえなくなるのだが、
それも通らないという難聴者もいるのではないだろうか。
軽・中度難聴者はどこへ相談に行っても、おそらく

「あなたは身体は健康な人と同じなのだから、
早く仕事を見つけて働きなさい」

と言われるだけで、何の相談にもならないだろう。



昔は「聴覚障害」という言葉すらも、聞いたことがありませんでした。
それが、今の社会では確かに、
聴覚障害について知っている健聴者も増えてきました。
しかしその反面

「本当は聞こえるんでしょ」

などという心ない言葉をかけられ、
よく疑われるようになりました。

相手が本気で追及してこないところを見ると、
やはり面白がって言っているとしか思えません。
冗談じゃない。
もう慣れているとはいえ、言われる度に、
今でも多少のショックは受けます。


たまたま、街で健聴者と口論になってしまった事例を紹介します。

仕事の合間、街の椅子に座って、缶ジュースを飲みながら
休憩していたときのことです。
たまたま、前の道を通りかかった人が、
何度も私を見るので、私も気になりだして、
その人を見ました。
その人はすでに私の前を通り過ぎていたのですが、
また振り返って、私を見ます。
私はその人を見ました。
すると、目が合ってしまいました。
相手はこっちへ戻ってきて私をにらみ

「○×△■◎▲・・・」
(「何見てんだよ」だと思う)

と言いました。

そのとき、相手の口を読み取れた私は

「見てないですよ」

と言いましたが、実際は見ていたのですから、
相手は嘘だとわかります。

くだらないことですが、男同士だと、こういうことは
ときどきあることです。
そのとき、私は休憩中だったので、補聴器を外していました。

「○×△■◎▲・・・」〔にらんでくる。口を大きく開けて怒鳴る〕
(「ウソつくなよ。何で見てるんだ!」だと思う)

私;「・・・」

相手;「○×△■◎▲・・・」〔にらんでくる〕
   (「何か言えよ!」だと思う)

私;(その人が缶チューハイを飲みながら歩いていたので)
「昼間から酒を飲んでいるのですか」

相手;〔急におとなしくなって〕「○×△■◎▲・・・」
(「そうだ。悪いか?」だと思う)

私;「何でもないですよ。今のは」


相手;「○×△■◎▲・・・」
(この時は私も、何を言っているのかわからなかった)

理由はわからないが、どうしても何か言わせたいらしい。

私;「仕事はしてないようですね」

相手;〔普通に〕「○×△■◎▲・・・」
(「してないよ」だと思う)

その人が仕事をしていないから、昼間から酒を飲んで
ブラブラしているということは、もう言われなくても、
誰にでも予想がつく。

私;「生活保護者ですか?」

相手;〔答えたくないような表情で〕「○×△■◎▲・・・」
(何を言っているのかわからないが、要するに私の推測を小さく
否定しているらしい。
しかし、完全否定はしていないようにも見える)

このとき、私は「この人は生活保護受給者だ」と確信した。

私;「実は、私は耳が聞こえないんです」

相手;「○×△■◎▲・・・」
(多分「ウソつけ! 聞こえないなら、何でしゃべれるんだよ」だと思う)

私;「本当に聞こえません」

頭に血が上ってしまった健聴者には、何を言っても通じない。
そして、彼は私のシャツの襟を掴んできた。

相手;「○×△■◎▲・・・」

私;「暴力はよせよ」

相手;〔激怒した表情で〕「○×△■◎▲・・・」

相手が何を言っているのかわからないのに、
よくぞここまで会話が続くものだ。

自分の推測力は、たいしたものだと思うが、
もう相手がどうしてこんなに怒っているのかも、
理解できない。

これが「コミュニケーション障害」で起きる「関係障害」
というやつだ。
こうなった場合、ケンカするか、理解してもらう以外に、
解決手段はない。

私はこう言った。

私;「音の聞こえない作曲家って、知っていますか?
その人と同じようなものです。
聞こえなくても、しゃべれる人はいます」

しかし、相手は無視して、それまでの厳しい表情とは変わり、
今度は笑い出しながら何かしゃべっていた。
私に間違いなくわかったのは、聞こえない人間をバカだと
言っていることだった。
彼の仕草で、完全にわかるのだ。
先天性の聴覚障害者には「目で人の心を読む」能力があるから、
わかるのだ。

私が相手の言葉を推測できなくなるということは、相手はもう
支離滅裂なことを言っているのだろうと思う。
話がつながらなくなると、推測できなくなるからだ。

聞こえない私は、相手の話を、視覚情報と、過去の人生経験に
基づいた日本語会話力だけで、ほぼ推測で理解しているから。

だが、幾ら能力的に得意とはいっても、推測力には限界がある。
相手が私に合わせてもらえれば、多少は通じ合えるのだが、
私が相手に合わせるだけだと、難しくなる。

それにしても、これだけ高い推測力を持っているのだから、
相手は私が聞こえると勘違いするのも、無理もないことだと思う。

相手は、自分の口に手を当ててから何かを試してきた。

私;「今、何か言っただろう」

相手;「○×△■◎▲・・・」
(聞こえてんじゃねぇかよ!)

私;「わかるに決まってるだろ。
たった今、お前の頬肉が動いたのだから」

相手;〔驚いたような表情で〕「・・・」(言葉も出なくなる)


聴覚障害者は聞こえないというハンディを、他の能力で補う
のは、きわめて当たり前のことだ。
それは、視覚情報をフルに生かすということだ。
だから音がしたのかどうかは、見えるものの変化でも十分わかる。
これが“音のマナー”を気にしないろう者と、音の記憶を生涯
持ち続ける中途失聴者との違いだ。

そのほかにも、中途失聴者の場合は、
会話を先読みすることも得意なのかもしれない。

そのうちに、諦めたのか、また時間の無駄だと思ったからなのか、
それとも馬鹿馬鹿しくなったのか、相手は自分から去っていった。

何の理解も、進歩もないコミュニケーションだった。
これでは、健聴者と関わるのもイヤになる。
お互いに、そう思うに違いない。
これが、聴覚障害者の関係障害だ。

くだらない話であるが、こういったことは、
私の長い人生の中では、過去に何度かあるのだ。


この特殊能力についての説明は、非常に残念ながら、
まだ不充分だと思っている。
これでは、「こういう特殊能力がある」という話だけで終わって
しまって、その秘密については説明できていないだろうと
思います。

まぁ、初めての試み、まだ試し書きということもあり、
仕方がないが・・・。
いい説明を思いついたときに、また書くことにします。



〔関連記事〕

『どうしようもない健聴者の無知、無理解』
〔2012-07-24 23:25〕



『健聴者の無理解』
〔2011-08-02 23:14〕



『「タマゴ」? 「タバコ」? (語音明瞭度について)』
〔2011-07-24 00:29〕



『カキの話』
〔2011-11-10 21:38〕



『聴覚障害者と話す方法 -難聴者、中途失聴者との場合』
〔2011-12-17 11:31〕



『耳が不自由でも会話をする方法』
〔2011-07-25 21:18〕



『聴覚障害者がマクドナルドで注文する方法』
〔2012-11-29 18:00〕



『『ゆうことカリンのバリアフリーコミュニケーション』』
〔2012-04-05 22:19〕


聴覚障害者の松森果林氏が述べている「オウム返しのマジック」も、
聞こえなくても健聴者と会話ができる手法の一つです。


『NHK教育『みんなの手話』放送開始』
〔2011-04-03 21:21〕


この記事に紹介しているNHK『ワンポイント手話』にレギュラー
出演している佐々木あやみ氏は、中途失聴者です。

テレビではご本人も音声日本語をしやべっているようですが、
ご覧になれば、おわかりになれると思います。
耳が聞こえなくなったからといって、ただちに言葉もしゃべれなく
なるということはないのではないか、と思います。

ご本人のブログ『佐々木あやみのハッピーSilentLife!』もあります。
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by bunbun6610 | 2013-12-10 18:00 | コミュニケーション能力


ある聴覚障害者から見た世界


by bunbun6610

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