ろう者と“音のマナー”

以前に、同じ会社にいたろう者の先輩Aさんと
話したことがあった。

私;「実は・・・。
聴覚障害者の労働問題のことで、自分も同じように
悩んでいるのですが・・・」

Aさん;「何? 言ってみて」

私;「会社の聴覚障害者雇用って、やっぱり差別ですよね」

Aさん;「差別?! そんなふうに言うもんじゃないわよ」

私;「言葉は確かに、あまり良くないです・・・。
でも実感としては、やっぱり差別だと思います」

Aさん;「私なんか、もうとっくの昔から『バカですよろしく』って
周りに振りまいて、割り切っていますよ」

私;「社会の問題だとわかっているのに、そんな割り切りかたは、
できません・・・」

Aさん;「それもそうね・・・。
ろう者はダメだよー」

私;「・・・?!」

そして、Aさんは黙ったまま、右手拳(こぶし)を上げ、
机の上をドン!と叩いた。
私はびっくりした。
なぜAさんが突然怒ったのかが、理解できなかったからだ。
そして、Aさんはもう一度、机の上を拳で叩いた。
それで、私はますます、頭の中が混乱してしまい、何を言えば
いいのかわからなくなってしまった。

Aさんはようやく、手話を再開した。

Aさん;「わかる? ろう者は会社でこうやるのよ。
会社で人を呼ぶときなんかにね」

私;「へぇー、びっくりした。
怒ったのかと思った」

確かに、ろう者は話すことができない人もいる。
だから、人を呼ぶときは、方法が異なっているのは知っている。(※)


(※)当ブログの過去記事にも、このことが載っている。
詳細は

『NHK『バリバラ』 ここがヘンだよ! 健常者 第2弾 (2)』
〔2013-05-23 18:30〕


参照。





ろう者は音が聞こえないから、机を叩くなど、振動を利用して、
相手を呼ぶ場合もある。
だがこれは、一方で確かに

「ろう者は音が聞こえないから、平気で大きな音を出したりする。
この“音のマナー”が問題だ」

と、健聴者からよく言われたりする。
健聴者がこれを見たら

「ろう者って、粗暴な人間だな」

と誤解したりする。
その誤解から、ろう者本人の知らずのうちに、職場の人間関係にも
響いていってしまう、というわけだ。
話せないとなると弁明もできないから、これは挽回することもできない。
自然に仕事を任せてもらえず、何も教えてもらえなくなったり、
休憩時間も一人ですごす。
そういった孤立にもなりかねない。

Aさんのこの話を聞いたら

「あなたは、まだいいほうだよ」

と言われているような気がしてきてしまった。
Aさんは多分、そんなつもりで私に話したのではないと
思うけれども・・・。

でも、そんな私ももう、音には気を遣わなくなってきて
しまっているのだ。
音が聞こえなくなってしまった人間にとっては、
健聴者の世界は、疲れる。
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by bunbun6610 | 2013-11-18 18:00 | 就労後の聴覚障害者問題B
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ある聴覚障害者から見た世界


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