ろう者と“音のマナー”
2013年 11月 18日
話したことがあった。
私;「実は・・・。
聴覚障害者の労働問題のことで、自分も同じように
悩んでいるのですが・・・」
Aさん;「何? 言ってみて」
私;「会社の聴覚障害者雇用って、やっぱり差別ですよね」
Aさん;「差別?! そんなふうに言うもんじゃないわよ」
私;「言葉は確かに、あまり良くないです・・・。
でも実感としては、やっぱり差別だと思います」
Aさん;「私なんか、もうとっくの昔から『バカですよろしく』って
周りに振りまいて、割り切っていますよ」
私;「社会の問題だとわかっているのに、そんな割り切りかたは、
できません・・・」
Aさん;「それもそうね・・・。
ろう者はダメだよー」
私;「・・・?!」
そして、Aさんは黙ったまま、右手拳(こぶし)を上げ、
机の上をドン!と叩いた。
私はびっくりした。
なぜAさんが突然怒ったのかが、理解できなかったからだ。
そして、Aさんはもう一度、机の上を拳で叩いた。
それで、私はますます、頭の中が混乱してしまい、何を言えば
いいのかわからなくなってしまった。
Aさんはようやく、手話を再開した。
Aさん;「わかる? ろう者は会社でこうやるのよ。
会社で人を呼ぶときなんかにね」
私;「へぇー、びっくりした。
怒ったのかと思った」
確かに、ろう者は話すことができない人もいる。
だから、人を呼ぶときは、方法が異なっているのは知っている。(※)
(※)当ブログの過去記事にも、このことが載っている。
詳細は
『NHK『バリバラ』 ここがヘンだよ! 健常者 第2弾 (2)』
〔2013-05-23 18:30〕
参照。
ろう者は音が聞こえないから、机を叩くなど、振動などの感触を利用して、
だがこれは、一方で確かに
「ろう者は音が聞こえないから、平気で大きな音を出したりする。
この“音のマナー”が問題だ」
と、健聴者からよく言われたりする。
健聴者がこれを見たら
「ろう者って、粗暴な人間だな」
と誤解したりする。
その誤解から、ろう者本人の知らずのうちに、職場の人間関係にも
響いていってしまう、というわけだ。
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【追記(参考記事)】(2023年11月29日)
米国社会から見た手話
2014年 05月 31日
米国社会から見た手話 : 蒼穹 -そうきゅう- (exblog.jp)
>「「ろう者は危険で気性も激しく、扱いにくいと思っている人は
たくさんいます。
化物の一種のようにとらえられ、できるだけ避けるべき存在とも
思われているのです。」」
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そして、そういう無意識的な経験をしていくうちに、
だんだんと社会で生きていく自信が持てなくなっていくのだと思う。
そして、悲しいことに、下のようになっていく。
働く聴覚障害者の精神保健
2023年 09月 19日
働く聴覚障害者の精神保健 : 蒼穹 -そうきゅう- (exblog.jp)
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自然に仕事を任せてもらえず、何も教えてもらえなくなったり、
休憩時間も一人ですごす。
そういった孤立にもなりかねない。
Aさんのこの話を聞いたら
「あなたは、まだいいほうだよ」
と言われているような気がしてきてしまった。
Aさんは多分、そんなつもりで私に話したのではないと
思うけれども・・・。
でも、そんな私ももう、音には気を遣わなくなってきて
しまっているのだ。
音が聞こえなくなってしまった人間にとっては、
健聴者の世界は、疲れる。
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【追記】(2024年3月21日)
昔、ろう者独特の文化が、Eテレ『バリバラ』というテレビ番組で、
紹介されていた。
そのろう者の場合は、人を呼ぶ時は、
自分の傍にある物を相手に投げつけたりするのだという。
(例えば、テレビのリモコンとか、ゴミ箱とか)
その文化の違いに、友人の健聴者は驚いていた。
あれと同じだ。
振動とか、相手の身体に触れたり、相手の視界にわざと入るなどの方法で、
他人を呼ぶしか、方法がなかったのだろう。
だが、こうした文化の違いは、会社面接でも、
健聴者には受け入れられない場合が、よくあると思う。
私も、最初は、驚いた。
なぜならば、昔から健聴者の文化を知っていたから。
ところが、ろう学校を卒業したろう者などには、知らない人がいる。
これが、健聴者中心の社会では致命的なのだ。
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