映画『最強のふたり』

フランス映画『最強のふたり』を、レンタルショップで借りて観た。


Eテレ『バリバラ』の

『第1回バリ・シネマ祭』(「障害者が登場する映画」)
〔今年の9月20日(金)放送〕


というテーマの番組があり、それにこの映画が紹介されていたので知った。
乙武匡洋氏が推奨しているフランス映画である。


障害者が主人公の映画は、ほとんど観たことがないが、
今までの映画やテレビドラマとは、障害者の捉え方が違うように
思えたので、観た。

実話をもとにしている映画なので、障害者のフィリップと健常者
のドリスが原作者だといってもいいくらいの物語だろう。
だから、健常者主導で脚色された映画とは違うわけだ。

そういう意味で、今までの障害者の映画とは違うし、
観る側の反応にも、今までとは違うリアクションが起きるだろう。

これまでの映画は、マジョリティの健常者に少しでも多く観てもらいたい、
そして共感を呼び込もうとするような物語が多かったと思う。
健常者に評価され、売れるということが大事だったのだろう。

しかし、この『最強のふたり』は、健常者はもちろん、障害者のほうにも
観てみる価値があるように思える。

フィリップの障害は、首から下がマヒしていて全く動かない「頚椎損傷障害」だ。
フィリップは、自分の介護者を雇おうとしていた。

ただ、その介護者には全く向いているとは思えないドリスを、
なぜフィリップ自ら選んだのだろうか。
多くの志望者は、フィリップの前で、もっともな志望動機を話す。
しかし、ドリスだけはコメディアンみたいに、おかしなことを、
しかも真剣に言う。
面接会場に現れたドリスはフィリップに

「3件の就職活動で不採用になれば、失業手当がもらえる。
だから、その証明書類を早く作ってくれ」

と、自分勝手な要求を平気で言う。
フィリップの介護をする仕事など、さらさら興味もなくて面接に来た、
というわけだ。
これだけでも、普通の障害者だったら怒るだろう。

大金持ちの障害者フィリップは、自分の好みで自由に介護者を選べる。
そこが、普通の障害者とは大きく違うところだろう。
大多数の普通の障害者は貧しくて職もなく、しかも障害者福祉という
決められた枠のなかでしか、世話を受けることができない。
自分の主張をすることなど、できっこない。
だがフィリップの場合は、違うのだ。

その点を、この映画を観る健常者は頭に入れておく必要があるだろう。
普通の障害者だったら、こうはいかない。
そして、こういう友情の物語も生まれなかっただろう、と思える。

面接日の翌日、なぜかフィリップはドリスに

「1カ月の試用期間で働いてみないか」

と言う。
実はドリスも、家から追い出され、住むところもなくなっていたので、
フィリップの提案には同意せざるをえなくなっていたのだ。

だが採用時、フィリップ自身が

「(ドリスは)2週間と持つまい」

と言っているのだ。
つまり、フィリップも最初からドリスを当てにしてはいなかったようだ。

この物語は、その点の疑問から始まる、といっていい。
それは、この映画を観る健常者も、障害者も同じだろう。

ドリスのユーモアは常識外れだと思ったが、悪気はなく、
本音でフィリップにブラック・ユーモアをぶちかます。
フィリップの人体実験をするのには、さすがに驚いたが、
これも実話なのだろうか。
雇用主フィリップと被雇用者ドリスという、立場の違いがあるということも
全く気にせずに。
でも、フィリップと人間として、対等に接するドリスに、
フィリップのほうも遠慮せずに、笑顔で冗談を言うようになるところが、
二人の関係変化である。

ある時、フィリップの外出を手伝うドリスは、車椅子用の車を初めて見て、
あざ笑っている。
ここでも

「イヤだね。
馬みたいに(フィリップを)荷台に載せろと?」

と文句を言う。
なるほど、確かにおかしい。

日本でも「障害者の家」みたいな施設に、毎日車椅子障害者
(脳性麻痺だと思うが)が何人か集まってくる。
そこは、障害者たちを車椅子ごとトヨタのバンに乗せて運ぶ。
最近は高齢者用にも、そうしたサービスがあるのを見たことがあるはずだ。

正直に言うと、アレを見ると、中に入れられた人たちが、
荷物か囚人みたいに見えてしまう。

ドリスは別の車を見つけて、フィリップを隣に座らせた。
おそらくドリスは、自分の好みだから、そのカッコイイ乗用車を選んだだけだろう。
最初から何もフィリップのことまで気にしてはいなかったように思える。
そこが彼らしい、自然体だったと思う。

しかし、実はこれが後になって、フィリップの障害者観を変えるきっかけにも
なったのではないだろうか、と思えるのだ。

その時は確かに、たまたまそうなっただけのことだろう。
ドリスの隣りに座り、会話をするフィリップは楽しげで、そのやり方は結果的に
正解だった。
彼らの間に次第に友情が生まれたのも、そのやり方からだったのだと思う。

フィリップがなぜドリスを正式に雇うことにしたのかは、映画を観ると
わかるだろう。
フィリップは、自分の周りの健常者との付き合いの虚しさを、ドリスには
本音でしゃべっている。

また、フィリップはエレオノールという女性と半年以上前から文通をしていた。
その女性とついに会う約束までしていたのだが、会うのが怖くなったのか、
直前で逃げ出してしまった。
やはりフィリップのプライド・・・というより、自分の本当の姿を見た相手が
ショックを受けてしまったり、またそれで自分が傷ついてしまうのも怖くて、
自分の障害をさらけ出すのに抵抗感を持っていたからだろう。
これは、障害の程度が比較的軽い難聴者にも、かなりいる。(※)

(※)当ブログ

『『レインツリーの国』(有川浩/原作)』
〔2012-04-19 20:47〕


参照。




そういう障害者心理は、誰にだってある。
障害者になって、健常者の見方を、イヤというほど知るようになれば、
無理もないことだ。

これは健常者の立場から見れば、責任転嫁しているように聞こえるかもしれない。
だが実際に、健常者だって障害者になると、心が変わっていくのだ。
そういう心理は障害者に、はじめからあったものではない。

ろう学校では明るく育ったろう児も、難聴児も、大人になって社会へ出ると、
ひとりぼっちになり、心が変わっていくらしい。
難聴者も、自分だけの悩みを打ち明けても理解してもらえず、
相当苦しむようになる。
そして、引きこもりがちになる人も少なくない。
社会環境で心が変わることが、実際にあるのだ。
その社会環境を圧倒的支配しているのは、健常者ではないだろうか。


面白かった場面は、伸び生(は)やしたフィリップの顎鬚(あごひげ)を、
ドリスが剃り落としてやる場面だ。
最後のドリス勝手に「ヒトラー型」にしたのは笑える。
ドリスは「障害者の独裁者だ」とか言って笑っていたようだが、
確かに大富豪の障害者フィリップなら、それになれないこともない。
金の権力にモノを言わせて、うるさいドリスを絶対服従させることだって
できないこともないのだから、まさにピッタリだったとさえ思ってしまう。

障害者と言っても、さまざまな人がいる。
フィリップのような障害者は珍しいかもしれない。
そして、その障害者の理想とする介護者だって、さまざまだろう。

この映画は、特に日本の、健常者の障害者に対するステレオタイプ思考に
風穴を開けるきっかけを生むかもしれない。

Eテレ『バリ・シネマ祭』を観たときにも感じたのだけれども、外国映画の場合、
日本とは違って「障害者を特別視、特別扱いしていない」ように思える。
番組レギュラー陣も、そこを話題にしていたように思う。

『最強のふたり』も、やっぱりその点を充分に感じる映画だ。

確かに、日本人にはショックすぎる映画かもしれないし、私もあまり好きには
なれない映画だ。
だが、外国では“普通”なのかもしれない。

もしかして、外国人から見れば日本のほうが“異常”とか“遅れている”
というふうに見えてしまうのかもしれない。


最後になってしまいましたが、他の人の感想が詳しく述べられている
ブログもあるので、下に紹介しておきます。

http://ironboy1203.blog.fc2.com/blog-entry-36.html
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by bunbun6610 | 2013-11-07 18:30 | バリア&バリアフリー


ある聴覚障害者から見た世界


by bunbun6610

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