『車椅子で夜明けのコーヒー 障害者の性』 1/2 小山内美智子さんの言葉

『車椅子で夜明けのコーヒー 障害者の性』
(小山内 美智子/著 1995年4月26日/第1刷
ネスコ/発行 文藝春秋/発売)


「障害者が一番しなければいけないこと、
それは、自分の障害を主張することです。」

     (シンディ〔米国の車椅子障害者〕)

当ブログ
『障害はあなたという人間の一部です』
〔2011-11-17 22:30〕

より。




〔参考情報〕
『書評で人と本をつなげるブログ/ブックハウス』




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「デンマークから来たデンマーク筋ジストロフィー協会
の会長エヴァルド・クロ氏は、日本全土をまわり講演
をした。
彼は歯切れのいい口調で、

『デンマークの福祉と日本の福祉とのあいだには
三十年開きがある』

といっていた。
驚いたというより腹が立った。
なぜこんなにも開きが起こったのか、だれの責任なのか
を考えた。
政治家、行政、教育、障害児の親、そして私たちの
責任だろう。
戦争にエネルギーを使いすぎたのだと思う。
車椅子ひとつを見ても、飛行機の座席でいうと
日本のはエコノミークラスで、デンマークのはファースト
クラスの椅子だ。
十五年前からもう北欧は大規模施設を壊して、
障害者の性の問題に真剣に取り組んでいた。
昨年、十五年ぶりにおとずれたスウェーデンでは、
『車椅子からベッドインまで』
というセックスケアのマニュアルもできていた。」


「人間、皆いくつもの顔を使いわけて生きているのだ。
しかし障害の重い人たちは、いつもいい子で子どもの
ようにふるまうことを要求されている。」


「北海道の障害をもつ中学生の少女が普通学校で
勉強したいと闘ったが、本人にも親にもどこで勉強
するかの選択をする権利はないと裁判所は答えた。
なんと悲しい社会なんだろう。
まわりにいる子どもたちは、彼女を見て何を考えて
いるのだろう。
施設では結婚を許しても妊娠は許されない。
障害があろうとなかろうと、せっかく生まれようと
する貴い命をなぜ消してしまうのか。」


「二十七歳になりコンドームをもっていてもおかしく
はないだろう。
しかしボランティアやヘルパーさんに見つかり、
軽蔑され来てもらえなくなったら困るという恐怖感
がつきまとっていた。」


「二十歳を過ぎたとき、少し知恵の遅れた人がいて、
私は言葉で化粧の仕方、洋服の選び方、料理の作り方、
ことこまかに伝えた。
目やにだらけでボロボロの服を着ていた彼女は、
私のアドバイスでくやしいほど美しくなったのである。

『きれいだね。よかったね』

というと、彼女は『ありがとう』と、はじめて涙を流した。
彼女は恋をしたらしく、料理のメニューを聞きに
しょっちゅう電話がかかってきた。
そして、セックスの仕方もことこまかに教えてあげた。
しかし、施設側はふしだらな知的障害者だといい、

『寝た子を起こさないでくれ』

と私をどなり、彼女は実家に戻された。
彼らが結婚したとき、避妊の仕方、セックスのやり方
などをまわりにいる人たちは恥じらいなくアドバイス
しなければいけない。」


「交通事故にあい、精子が出なくなったという男性
からの電話を受けたことがある。
彼に子どもがつくれないとわかると婚約者は去って
いったという。
それは子どもがつくれるとかつくれないという理由
ではないと思う。
歩けなくなった彼を見たくなかったのかもしれない。
心は離れていく。
相手に子どもをつくる能力がなくなったと知ったとき、
別れを告げる人もいる。
それは死刑宣告にも似たむごい現実である。
日本でも障害者がミニスカートをはき、激しいベッド
シーンがある映画を作りたい。
プレイボーイの車椅子男性を描きたい。
それができたとき、日本の社会もようやく
成熟したといえるのではなかろうか。」


「なぜなら、障害者は夫婦げんかをしたときに、
意地をはっていたとしても、トイレに行きたくなれば
トイレ介助をしてもらわなければならない。
障害をもった側が、

『さっきはごめんなさい』

と先にあやまざるをえない辛さを、私が一番よく
知っているからである。」


「(トイレ便器の)ウォシュレットはもとは障害者の
ために作られたという。
現代ではテレビ、ステレオ、ドアのロック、照明など、
一般の人たちは知らずのうちにリモコンを使って
いるが、これらも障害者のために作られたのだ。
車のオートマチックや、野菜切り器など、障害者の
ために作ったものが、障害をもたない人たちに
とっても便利だということがわかり、
一般に普及している。
電動車椅子の小さなハンドルの箱の発明は、
NASAで研究されたという。

アパートを探しにいったとき、

『玄関にスロープをつけてもいいですか?』

と聞くと、アパートの美観が損なわれる、といわれた。
なぜ階段が美しいものとされているのか。
階段をつけた建築家は、自分が年をとり、
その階段に上れない日がくることに気づかない
のだろうか。
自分の身のまわりのものを見渡してほしい。
だれもが、ひとつや二つ、障害者のために
作られたものを使っている、ということに気づくはずだ。
けっして私たちは邪魔な存在ではない。
わがままをたくさんいって生きていることが、
私たちの仕事なのだ。」


「私たちは美しいプロポーションではない。
美しい顔でもない。
美しく着飾ってもさまにはならない。
殺し文句が一番きくらしい。
自分なりの口説き方を勉強するほか、手だては
ないだろう。
それはだれからも教えてはもらえない。
孤独なマラソンランナーである。
ゴールを見ないで死んでしまう人もいるだろう。」


「障害があるから異性を得ることができないとは、
いいたくない。
が、やはり山奥の施設で健康な男女三百人いても、
赤ん坊の泣き声、かん高い子どものおしゃべりが
ひとつも聞こえてこないのは、奇妙な世界である。

ある講演の最後の質疑応答で、施設を見学した
中年の女性が、

『すばらしい設備の施設でしたよ。
あんないいものを作ってもらい、何が不満なの』

と私に問いかけた。

『じゃあ、あなた一生あそこで暮らしたいですか?』

と彼女に聞くと、低い声で、

『いいえ、暮らしたくありません』

とうつむいた。
五百人くらいいた会場が、一瞬のうちに静まりかえった。
私はあまりにもきつい言葉をいいすぎたのかと思い、
涙が出てしまった。」


「ホストクラブからの帰り際、ハンサムボーイがタクシー
を拾ってくださった。
一台目がつかまったけど、

『あまり感じのいい人ではない』

といい、彼は断った。
そして二台目のタクシーは、とても感じのいい人だった
ので、

『この人なら大丈夫だよ』

といい、乗せてくださった。
もう真夜中の十二時を過ぎていただろうか。
彼の予想どおり、タクシーの運転手さんはとても
親切だった。

『すいませんねえ』

と何度もいうと、運転手さんは、

『こんなこと、当たり前ですよ。
あなたはお客様なのですから』

といい、車椅子を上手に開き、家の玄関まで
送ってくださった。
あれほど感じのいい運転手さんはめったにいない。
会社の名前と本人の名前を覚えておけばよかったと、
後悔している。

障害をもった人たちは、タクシーに乗るのが
恐ろしいという。
その意味は、私もいく度か経験しているので
よくわかる。

『なんで、付添人がいないのか。
面倒だ』

とどなる人もいる。
まったく悲しいことである。
北海道の障害者は冬は雪があり、地下鉄に
エレベーターがついても、そのエレベーター
まで行く手段さえない。
秋の冷たい風が吹くと、友人たちは、

『また穴ごもりの季節がやってきたなあ。
つまらないなあ』

という。
十二月、一月に東京に行ったとき、障害者たちは
すいすいと電動車椅子に乗っていた。
あれほどうらやましいと思ったことはないほど、
感激した。
タクシーもチップでも払えば親切にしてくれるの
だろうか。
なぜお客をどなりまくるのか、全国のタクシー会社
を経営している社長に訴えたい。
優しい運転手さんがふえないかぎり、雪国に住んで
いる私たちはどこにも行けない。
この問題をなんとか解決したいものである。」


「女を口説くために年金を使ったほうがいいのでは
ないか。
ところが、年金さえ親が管理し、三十代、四十代の
大の大人が月五千円、一万円のお小遣いという人
もいる。

『それでは女は口説けないよ』

という。
年金を月いくらもらっているかわからない人さえいる。

『一度でいいから喫茶店に行ってみたいなあ、
コンサートにも・・・』

というひとがいるのだ。
女を口説くために借金してもいいのではないか。
それがノーマルな社会だと思う。
障害のない人で女に狂って、身を滅ぼす人は
たくさんいるのではないか。
それがいいとはいえないが、障害者だってそういう
人生をおくる人がいてもいいのではないか。

セックス・ケアはどこまで踏みこんでいいのか。
服を脱がせ、下着をはずし、コンドームまでつけて
あげるのか。
そして、どちらかの体を上に乗せてあげるのか。
むずかしい。」


「秋も終わり、ストーブを買わなければ行けない
季節になっても、

『ストーブを買ってきて』

という電話がない。
副会長兼コーディネーターをしている沢口さんが
しびれを切らして、

『寒くない? ストーブ買おうか?』

と電話しても、あまりいい返事はこない。

『全部やってあげるのは簡単だけど、それでは施設の
ようになってしまう』

という沢口さんは、ストーブのパンフレットを持って行き、
選んでもらったという。

『もし凍え死んだら私たちのせいになるもんねえ。
どこまで手伝おうか、どこまで待っているかむずかしいよ。
プライドの高い保育園生のように見えることもあるよ』

と彼女はつぶやいていた。
施設は寒くなったら黙っていてもストーブが入る。
ご飯が目の前にくる、黙っていても寝る時間がくる。
これではいくら年をとっても社会人にはなれない。
沢口さんは、

『私たちもそういう時代があったんだねえ』

と大きなため息をつき、ケアのことからストーブのことまで
心配している。

『私たちもしかしたら施設の職員になっているときも
あるかもね』

といっていた。」



「(阪神大震災の後で)ニュースでボランティアが豚汁を
作ってもってきた。
ひとりのおばあさんの前に豚汁をおいたが、食べさせて
くれる人がいなかったという。
そんなコメントを聞き、私の幼い頃、食事の匂いだけが
鼻を通り、だれも食べさせてくれなかったことを思い出し、
涙が止まらなくなってしまった。
性のことから、現実めいたことまで書いてしまったが、
豚汁が食べられなかったお婆さんの苦しみと、
バージンで死んでいく障害者たちの悔しさは、
同じものではないだろうか。
被災者の人たちは力強く立ち上がるのにちがいない。
障害者も声を大にして立ちあがり、恋愛をし、
子どもを産み、育て、悔いのない人生を送ってほしい。」


「次はケア・マニュアルの本を書きたいと思っている。
全国で介護学校がたくさんできているが、あれは
私にとってはありがた迷惑なことなのだ。
教科書を作るのはすべてケアを受けたことのない人
なのである。
だから、ケアを受ける立場で、教科書を作りたいと思う。
もちろん私だけの原稿ではなく、看護婦、医師、
ケースワーカー、学識経験者の人たちにも原稿を
書いていただき、本物のケアとは何かということを
書き綴りたい。
原稿の中で、障害をもたない人たちと意見が違って
くるかもしれない。
でも、それでいいのだと思う。
その迷いや答えは、ケアを受ける人、ケアをする人が、
働きながら考え出していけばいいのだと思う。
この夢は実現させたい。
協力してくださる方がいらっしゃったら、
ぜひ手をあげていただきたい。

本当は介護学校なんていらないと思う。
しかし、国が決めたのだから仕方がない。
私の死ぬまでの夢は小さな介護学校を作り、
校長になることである。
生徒さんたちにお風呂にいれていただき、

『あなたは七十点。あなたは八十点』

と手つきや視線を見て思いやりを感じて、
点数をつけること。
そんな学校があってもいいのではないか。
介護はペーパーテストではない。
記憶力でもない。
学歴でもない。
才能なのである。
その才能と優しさを見つけていくことが、
今後私たちの仕事だと考えている。
障害が重ければ重いほど、優れた教師になれる。
本当のケアを教えられる。
厄介者と思われていた重度障害者は、二十一世紀
の高齢社会の財産となっていくのだ。
みんな、プライドをもって生きてほしい。」

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by bunbun6610 | 2013-08-25 18:00 | バリア&バリアフリー


ある聴覚障害者から見た世界


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