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ある聴覚障害者から見た世界


by bunbun6610

遠足(2) ――相反しやすい、安全問題と障害者問題

『だいじょうぶ3組』(乙武洋匡/著)

http://www.amazon.co.jp/%E3%81%A0%E3%81%84%E3%81%98%E3%82%87%E3%81%86%E3%81%B63%E7%B5%84-%E4%B9%99%E6%AD%A6-%E6%B4%8B%E5%8C%A1/dp/4062162997


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「今度は灰谷ではなく、校長の黒木が紺野のとなりにすわる
丸顔の介助員を指名した。

『ぼくですか? ぼくはあれこれと意見できる立場では
ないので慎みますが、ただ……もし、
赤尾先生もいっしょに行けることになったとしたら、
そのときは全力でサポートさせてもらいます』

これで、発言していないのは議論の的となっている
張本人だけとなった。
それまでほっぺたの内側を軽くかみながら、
ずっとほかの人の意見を聞いていた赤尾は、
黒木から発言をうながされると、
ぐるぐると頭のなかに渦巻いていた自分の
考えをなんとかひとつにまとめ、
それを言葉としてつないでいった。

『もちろん、子どもたちといっしょに行きたいという
気持ちはあります。
彼らがこんなことをするなんて考えてもみなかったし、
その気持ちになんとか応えてやりたい。
だけど、今回の遠足が登山だということを考えると、
やっぱりぼくが行けば足手まといになってしまう。
だから、行かないほうがいいのかなと、
そう思っています……』

それが苦渋の選択だということは、
その場にいただれもがわかっていた。
だから、だれもうかつに口を開けなくなってしまった。」


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ここまで読むと、私はある言葉を思い出しました。



「…車椅子の彼女はひたすら恐縮していた。

『すみません。すみません。すみません。もういいですから』。

彼女の言った一字一句は覚えていないが、

『これ以上皆さんにご迷惑をおかけしたくない。
私さえあきらめればいいのですから』

というニュアンスが感じられた。」

当ブログのカテゴリー『哀れみはいらない』記事
『ADAと『障害者の経済学』』〔2011-10-29 21:36〕より。




もし自分だったら、やはり赤尾先生と同じように諦めただろう。
しかし、この小説では、校長先生のもと、全員で協議した結果、
次のような結論に至ります。



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「『校長先生、いかがしましょうか?』

しばらく沈黙が続くと、しびれを切らした灰谷が、
最高責任者に決を求めた。
黒木が、ゆっくりと口を開く。

『赤尾先生?』

『はい』

『もしも、障害があるのが自分ではなく、
自分のクラスの子どもだったら、どうしますか?
車いすの子は迷惑だから連れていかない。
やはり、そういう判断をなさいますか?』

『いえ、しないと思います』

黒木は深くうなずいた。

『青柳先生は?』

『何とかしていっしょに行ける方法がないか、
あらゆる手段を考えてみます』

『紺野先生は?』

『ぼくがおんぶしてでも連れていきますよ!』

肉体派の二組担任は、ぶ厚い胸板を力強く叩いてみせた。

三人の返答に満足そうな笑みを浮かべた黒木は、
校長としての最終的な決断を伝えた。

『今度の五年生遠足は、一号路で行きましよう。
それでも、途中、車いすではきびしい箇所があるかもしれない。
そのときは、白石先生だけでなく、青柳先生も、
紺野先生もサポートをお願いします』

ソファーにならぶ三人が、それぞれにうなずいた。

『そうして支えあう姿を子どもたちが目にすることで、
新たに生まれる教育的効果もあるでしょう。
先生がた、どうぞよろしくお願いします』

黒木の言葉に全員が頭を下げたが、
赤尾だけは体を折りまげるようにして、
一段と深く、感謝の気持ちを伝えていた。」



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校長先生は、この学校内だけではなく、
一見して重要と思われる、青柳先生の
前例主義的な意見でもなく、
今までにはない広い視点での意見を、
各クラスの担任先生に求めてみました。

各先生の胸のうちにある、本当の思いに直接、
聞いてみたのです。

それが答えだったのです。

三組に障害を持つ子どもはいなかったけれども、
この広い社会にはいます。
それは今の普通学校では、障害を持つ子どもが
通うことを許可されず、あるいは社会からサポートが
受けられないために、隔離されている、
ということもあると思います。
今の多くの障害児の現実です。

学校側の取る障害児対応が、親(家庭教育)へ
影響を与えていることも、
考慮しなくてはならないと思います。

確かに、青柳先生のように前例主義で考えるならば、
遠足に参加できる健常の子どもたちの安全は
保障されると思います。

しかし、それでは健常者の都合で逃げているだけで
あって、障害者問題の解決になってはいないのでは
ないだろうか。

原作者は、そこを読む人にも考えて欲しかったのでは
ないか、と思います。
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by bunbun6610 | 2013-05-12 18:00 | だいじょうぶ3組