米国・ギャローデット大学でのろう運動

『1988年にギャローデット大学で起きた、
ろう者学生、卒業生の抗議運動』


アメリカのギャローデット大学は、世界中からろう者が
集まる大学として有名です。

この出来事は、ADA法(1990年障害を持つアメリカ人法)が
出来る前に起きた、ろう者が主体の障害者運動です。

この頃、ジョージ・ブッシュ副大統領(当時)が

「ろう者の学長を選考するようギャローデット大学に
強く促していた」

のだという。

そして1990年7月26日、
ジョージ・ブッシュ大統領(当時)は、
ADA法に署名しました。

http://www.ibojapan.org/overseas/ada.html



ろう者の映像作家・今村彩子氏のブログには、
現在のアメリカの大学の状況を書いた記事が出ています。

http://studioaya.com/profile/img/201301_boramimi.pdf


日本とは、偉い違いだったようです。
アメリカはどうして、このようになったのでしょうか?

それを知る手がかりのひとつが、この

『哀れみはいらない ―全米障害者運動の軌跡』

という本なのです。



『哀れみはいらない―全米障害者運動の軌跡』(著者: ジョセフ・P. シャピロ /現代書館)

 →http://booklog.jp/users/miyamatsuoka/archives/4768434185

(参考)臼井久実子
 →http://www.yuki-enishi.com/guest/guest-020529-1.html



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「『反乱の発端』
ギャローデット大学生の抗議運動。
人々は一九九八年三月に起きたこの出来事を学生の反乱として
覚えているが、実際のきっかけとなったのは、社会に出て偏見や
差別のつらさと闘っていた最近の卒業生の怒りだった。

発端は一九九七年八月。
ギャローデット大学で、健聴者のジェリー・リー学長がその年
一二月に辞職すると発表、氏の後を継ぐ候補者をふるいに
かけ始めた。
開校以来今までの一二四年、ギャローデットでは六人が
学長についたが、ろう者の学長が選ばれたことは一回も
なかった。
ひとり平均約二〇年間ずつ務めたが、一九八〇年代に
三人替わった。
前回の一九八四年にリーが選ばれたとき、ろう者を学長に
したほうがいいかどうか、ほんの少しだけ話題になった。

翌八八年二月に六人の卒業生が集まり、学長選出員会の
候補者リストに議論が集中した。
耳が聴こえないということは、聴こえる世界から全く期待
されていないことに対して絶えず闘うことだ。
ろう者の大学として世界に名立たる学校なのに、まだ学長に
ろう者がいない。
これは、ひどい屈辱だ。
だいたい前回の八四年には、どうしてろう者が選ばれなかった
のか。
皆がこう思った。

今度、もしろう者が選ばれなければ、さらに何年も待たなければ
ならないかもしれない。
今回しかチャンスはないのでは。

ろう者の学長を求めて立ち上がろう。
こう決意を固めた卒業生らは、学長と他の卒業生、
教員らの連帯を得て、学校側も無視できないような大集会を
キャンパスで開催することにした。

この集会開催に具体的支援を提供したのは、卒業生で地元の起業家、
ジョン・イエーとデイビット・バーンバウムだった。
卒業生が起こした企業と委託契約を結ぼうとしないギャローデット大学を、
ふたりは快く思っていなかったからだ。
ギャローデットは、赤レンガに囲まれたビクトリア調キャンパスで
ろう者の学生をまるで繭の中のような環境で保護している。

が、いったん学生が卒業してしまうと、聴こえる世界と同じように
心ない排除や軽蔑で対応している。
大学の本来の目的であるろう者の自立を全く裏切る行為ではないか。
こうふたりは思っていた。

一方、在学生の学生は、キャンパス外で起こっているろう者への
差別にはほとんど無関心だった、と卒業生の代表ジャック・ギャノン
は言う。
次期学長選出のニュースも、学生にとっては単なる学校運営上の
出来事でしかなかった。

「多くのろう者は聴こえる世界のほうがよいという考えをもつように言われ、
生活してきました。
ですから自分たちに押し付けられている限界を疑いもせず、
そのまま受けとめがちなんです」。

ギャローデットの生涯大学学長ロザリン・ローゼンは、
理由をこう説明する。
学生間で社会の対応に対して異なった意見が存在していたこともある。
アメリカにいる聴覚障害者二二〇〇万人のうち、全く耳の聴こえない
人たちはその一〇%といわれている。
この人口構成を反映して、ギャローデット大学には難聴者も多く、
補聴器をつければ聴こえる人たちもいた。
そして、同じ程度の障害者同士がグループをつくる傾向がみられ、
たとえば補聴器使用者のグループは社会に出ることに関しては
より楽観的だった。

どうしたら、無関心で、ばらばらの感覚や意見をもつ学生たちの
注意を喚起し、集会に動員できるか?
学長選出問題をできるだけわかりやすい人権問題として
学生たちにアピールできないか?
卒業生たちはこう考え始めた。



「「ろう者の学長を、今」と書いたTシャツのジェフ・ローゼンは、
ピック・アップ・トラックの荷台の上に立って手話で訴えた。

「公民権運動で命を失った人もいます。
ベトナム戦争に反対して刑務所に入れられた人もいます。
さて、一九八八年の今日、今この瞬間、私はここに立って
皆さんにお聞きしましょう。
皆さんはいったい何を信じて生きていますか。
何を理想にして生きていますか」

二十人ほどの講演者のひとり、アレン・サスマン教授は言った。

「今日のこの出来事は、歴史に残るでしょう。
ろう者による全米初の公民権運動なのですから」

この言葉が学生の心を大きくゆり動かした。
ろう者に対する社会の対応を、人権問題として考えたことも
なかった多くの学生が、この言葉で目覚めたのだ。」



「一方、偶然にも同じ日に、次期学長の最終候補三人が
決定されていた。
ひとりは、思春期に聴覚を失ったギャローデット大学の
文芸学部長、アイ・キング・ジョーダン、もうひとりは、
生まれたときからろう者で、ルイジアナ州の全寮制
ろう学校の学長、ハービー・コーソン、
最後は、健聴者で、北カロライナ大学グリーンスポロ校の
エリザベス・ジンサーだった。

…(中略)…

三月六日、日曜日、午前八時半。
約五百名の学生と卒業生グループが正門前に集合した。
ちょうどこの時間、理事会で学長が最終決定されることに
なっていたからだ。

が、実際はそれより二時間も前にプレス・リリースが発表され、
候補者のなかで唯一健聴のエリザベス・ジンサーが選ばれた。

人々の怒りは爆発した。
演説と、たくさんの涙。
抗議の象徴として、プレス・リリースが燃やされた。

さらに抗議の一団は、

「ろう者の学長を、今」

と叫びながら、町の中心地にあるメイフラワー・ホテルに
デモ行進した。

ここで大学の理事たちが新しい学長の決定を祝っていたからだ。
警察隊はホテルの入口をふさぎ、デモ隊が手話で抗議した。
ヒルブルックとローラス、そしてジェフ・ローゼンら数人が
中に呼ばれ、理事たちと話した。

このとき理事会長のジェーン・バセット・スピルマンは、
非常に屈辱的な説明をしたのだという。

「ろう者たちには、まだ、聴こえる世界で機能するための
準備ができていない」

と言ったのだ。
のちに彼女は、それは手話通訳の誤訳だと弁解したが、
この弁解自体、健聴者がろう者の上に立って発言するという
学校側の意識の反映と思われた。

また、スピルマンは七年間も理事を務めてきたが、
いまだに手話で会話ができない。
なぜ彼女は手話を学ぼうとしなかったのか。
その意識も疑われた。」



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この後、大変なことになっていることが原著に
記されています。
大学授業ボイコット、スピルマンと学生たちの
対立激化、連邦議事堂とホワイトハウスに向かっての
デモ行進、そしてこの問題は、全米の注目を集めるように
なったという。

市民のなかには、学生たちの抗議を支援する人も出てきた、
という。
この結果は、理事会によって選ばれたジンサーも、
スピルマンも辞職しました。

が、スピルマンは辞職のときも、またこんな屈辱的なことを言っています。


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「「私のような人間は、ギャローデット大学の未来の発展を
妨げていると思われる方もいるでしょう。
私はこの大学が発展することを心から、本当に心から
望んでいるがゆえに、その障害物をみずから取りのぞきましょう」。
が、彼女は最後まで、聴こえる学長が最善の選択だったと
主張していた。」



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いやいや…。
まさか、スピルマン自身が身を引く(辞職)ことによって、
ろう者たちの前にある障害物が取りのぞかれたとでも?
ろう者学生の主体的行動が、その障壁を壊した、
と言ったほうが適当なのではないだろうか。


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「『ろうは文化 障害ではない』
一方で、ギャローデット大学の学生が障害者の権利確立に
大きく寄与したのは大いなる皮肉と言えた。
なぜなら彼(彼女)らの多くは、聴こえないことを障害ととらえず、
ひとつの独立した文化としてとらえているからだ。
ユダヤ人であるとかアイルランド人であるとか、
ナバホ系インディアンであるのと同じ意味だ。
同じ耳が聴こえない(deaf)という表現でも、独立した文化集団
であることを意味するときは頭文字を大文字にして「Deaf」とし、
聴力の状態を指すときには小文字で「deaf」とすると
区別をつける人もいる。

大文字は、英語とは全然違う複雑な体系のアメリカ手話を使い、
独自の歴史や文化を所有しているというわけだ。

ギャローデット大学のリーダーたちにとって、
「障害」は医学的な観点からの人間の状態である。
聴力の欠如をこの「障害」、そして更生が必要な病理と考える
人々は長い間ろう者を抑圧してきた。

ギャローデットのリーダーたちは、自分たちを哀れみ、
能力が劣っているとみなしてきた人々に嫌悪感を抱いた。
この部分では障害者権利運動の大枠の考え方に共鳴する。


ギャローデット大学の巨漢でカナダ出身のフットボール選手、
ジョン・リムニディスは、映画『愛は静けさの中に』で端役を
演じたこともあるろう者だが、こう言う。

「耳が聴こえないことは障害ではありません。
むしろ文化です。
手話は別の言語です。
私は、耳が聴こえないことを誇りに思っています。
もし万が一耳が聴こえるようになる薬があっても、
決して飲まないでしょうね。
決して、決してね。
死ぬまで絶対飲みませんよ」」


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by bunbun6610 | 2013-03-05 18:00 | 哀れみはいらない


ある聴覚障害者から見た世界


by bunbun6610

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