言葉が聞き取りにくくても、会話が出来る理由

就労後の聴覚障害者問題

『職場の人たちとの、飲み会で』

補聴器は、聞こえの問題を少しでも解決しようと
してくれるアイテムだが、正直、健聴者相手には
厄介なことになってしまう場合もあると思います。
音は確かに耳に入るようにはなりますが、
感音性難聴者には、言葉がわかるとは限りません。
そのため、補聴器を使用すれば誤解され、
理解を遠ざけてしまうケースもあります。

補聴器を装用したまま、健聴者に

「私は耳が聞こえません」

とか、

「私は聴覚障害者○級です」

と説明しても、聴覚障害のことを正確に理解して
もらえないのが当然でしょう。
健聴者も自分も、チグハグになってしまうのです。


ある日の夜、勤務先の新人歓迎会に出席した。
周りは健常者で、ほぼ初対面の人が5人もいた。
「ほぼ初対面の人」と言ったのは、顔を知っているだけで、
実際には話したことがほとんどない人ばかりだったからで
ある。
私のことに関しては「耳が聞こえない」ということしか
知らなかったようだ。
私は勤務先で、一人で裏方の仕事を担当している。
でも他の人は、職場でよく会話をしている。
そういう分離が、聴覚障害者としての宿命としてあるのだ。

だが、宿命はそれだけではない。
この新人歓迎会でもそうだった。
飲み会では今後も、同様の状況が続くだろう。

AさんとBさんが話していると、私はその話の内容を
全くつかめない。
補聴器で音声だけ拾うのがやっとで、話の内容までは
つかみとれないからだ。

ところが、私とAさんという、1対1での会話シーンで
ならば、補聴器はそこそこに効果がある。
けれども、飲み会でのAさんとBさん、Cさん、Dさん
の会話を聞き取らなければならないような、
混沌とした会話環境には、補聴器は全く効果がない。

なぜかというと、私の耳に補聴器を着けただけでは、
他人同士の話の内容をつかむのは無理だからだ。

内容を理解するには、私自身が想像力を働かせられる
環境条件が絶対的に必要だ。

しかし残念なことに、そのことが大勢いる他の健常者には、
全く察知することができない。
健常者はそれを不思議に思うだけだ。
そして、この疑問について深く考えられず、
すぐに忘れ去られてしまう。

①Aさん;「い○ きこ○○よね」

私;「ん? 聞こえるよ」

②Bさん;「○○さ○ ほ○と○は きこえ○○で○○」(最後の表情は「?」)

私;「話の内容まで聞こえないけど、何て言っているかは、わかるんだ」

③Dさん;「…???」(表情が)

④Aさん;「き○○た」(最後の表情は「?」)

私;「何?」

⑤Aさん;「○○べれ○○○ ど○てきこえない○」(最後の表情は「?」)



この話しがなぜ、意味をつかめる(私が聞こえない人なのに通じている)
のか、私なりに解説してみよう。

①の最後は「?」の表情が視覚で確認できる。
「聞こえるよね」だろうと想像できる。
だから、完全に聞き取れなくても「ん? きこえるよ」と
とりあえず答えてみる。
そこで皆はその答えに驚く。
その様子を見て、自分の想像が当たっているとわかる。
しかも、次の質問でまたそのことを「どうして?」
という表情で聞いてくる。
だから彼らの質問も当然、私の想像通りになってしまう。
そうなってくると、私にとっては会話の流れ(行方)を
読み取りやすくなってくるのだ。
自分が想像しやすいように、会話の主導権を取ってしまえば、
問題は半減する。

②は「■さん、本当は、聞こえるんでしょ?」と言っていることが
想像できる。
②の文の冒頭の言葉は明らかに私の名前だろう。
聞こえなくても分かる。
Bさんは、こっちを向いて話していれば、大体想像はできるのだから。
そこで私は
「話の内容まで聞こえないけど、何て言っているかは、わかるんだ」
と答える。
すると、皆はまたもや驚いて、このことに関する質問に集中する。
ただ見ているだけのDさんは、呆然として見ている。
おかしいというような表情である。
Dさんはおそらく、納得できていない。

④はAさんが①の話をまた繰り返していることが、
表情や口型の特徴などの視覚情報から分かる。
だから「聞こえる?」なのである。
だから私は「(だから)何?」と反応している。
想像するときには、このように言葉のつながりをつくる。
全体をつながる文にすることが正解だと、自分でもわかっている。
だから、皆は信じられないように「本当は聞こえているんだ」と
思ってしまうのだろう。

話の全部の言葉を完全に聞き取れなくても、相手の話の
内容を理解できるのは、私の日本語力という経験(勘)や、
頭脳があるからである。

例えば、話し言葉に間がある。
これは補聴器で聞いていてもある程度分かるし、口を見ても
分かる。
区切れれば相手が何て言っているのか想像しやすくなり、
分かりやすくなるのである。

⑤の「しゃべれるけど、どうしてきこえないの?」が分かったのは、
最後に表情の「?」があるから、想像がつくのである。
言葉通りには言えなくて、意味はわかるのである。
だから、会話自体は成り立つ。

母が気づかなかったのも無理もないといえば、そうなるだろう。
しかし、もしも聴覚障害のことをもう少し学んでいたなら、
違っていたかもしれない。

残念ながら「聴覚障害者=重度聴覚障害者(ろうあ者)」という、
おかしな発想は、一般の健常者だけでなく、手話通訳者・士にも、
まれに見られる。
軽度や中度、中途失聴者の人もたくさんいる、ということをもっと
知ってもらうことによって
「聞こえなくても普通に会話ができる場合もある」
ということを正確に理解してくれる社会になってもらいたい、
と思う。
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by bunbun6610 | 2012-05-06 18:55 | コミュニケーション能力


ある聴覚障害者から見た世界


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