中途失聴・難聴者への支援のあり方から

当ブログ
『精神障害者への就労支援のあり方から』(2012-02-13 22:05)

(『第4回労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会議事録』)

に続く、中途失聴者、難聴者側の意見です。

先天性難聴障害者の立場から高岡氏、
中途失聴者の立場から新谷氏が発言しています。

原文が非常に長いですので、
これは本稿で必要な部分のみ、
引用させていただきました。


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○高岡氏
 
 「まず、最初に、施策の前提として我が国の聴覚障害者の定義が
国際的に非常に狭いということが挙げられます。
身体障害者福祉法の身体障害者手帳をもっている者は、両耳が
70デシベル以上の聴力損失をもっている人ですが、次のページに
あります表を見ますと、WHO(世界保健機構)の難聴者の基準と
大きくかけ離れていることが分かります。
WHOでは41デシベル、軽度難聴が25デシベルから分類されて
いますけれども、補聴器が常時必要な難聴者というのは41デシベル
からです。
ところが、日本では、身体障害者福祉法の第6級に該当する聴覚障害者は
70デシベルなんです。

40デシベルと70デシベルというのは、音響的にはとても大きな隔たり
があります。
70デシベルというと、耳元30センチで大声を出して、やっと聞こえるか、
聞こえないかというぐらいの、医学的には非常に重度の難聴、WHOでも
高度の難聴者なんです。
ですから、日本の身体障害者福祉法では重度の難聴者しかサポートされて
いないということになります。」
 

「私たちは学習をすれば、手話通訳も読みとることができますけれども、
自分の意見を自由に手話で表現するというのは、かなり熟練しないと
難しいです。」
 

 「(会社の)試験採用時にコミュニケーション支援を要望しても、
それがつけられないということが非常に多いです。
国家公務員あるいは地方公務員の採用試験の時にも、手話通訳、要約筆記を
つけるといった例はまだ非常に少ない。
要望したにも拘わらずつけられないといったことすらまだあります。
 また、障害者の企業就職の集団面接が行われていますけれども、
そこで要約筆記者、手話通訳者を配置しても、本当なら必要な聴覚障害者、
難聴者も手話通訳を利用しません。
何故かというと、企業に採用される時に、手話通訳を使わなければ仕事が
できないのかと思われるのを避けるために、私は聞こえます、大丈夫です、
口が読めますというふうに言ってしまうんですね。
これは、私たちが仕事を選択する時に一番最初にぶつかる大きな壁です。」

 
 「コミュニケーションの課題をもつ聴覚障害者の場合には、就労した後の
労働環境問題が非常に重要です。
就労した後に、十分なコミュニケーション支援が得られず、離職、転職、昇進の
差別など、多くの問題に直面します。」


 「雇用者側の合理的配慮義務に対応した行政側の就労時施策として、
障害者雇用割り当て制度、また、それに基づく障害者雇用納付金制度が
ありますけれども、就労・労働場面では、障害者介助等助成金を雇用者側の
合理的配慮を補完するものとして、明確にし、必ずこうした助成金を活用して、
就労の促進を図るということです。
 ちなみに、聴覚障害の場合、障害者介助等助成金は手話通訳は対応して
いますけれども、要約筆記あるいは盲ろう者の通訳などには対応していません。
ですから、私が現在会社で要約筆記を会社の費用で派遣をしてもらっていますが、
この制度を使えないわけです。」

 「就労に当たっての合理的配慮には、要約筆記者の派遣など、人的支援に
止まらず、会議室での磁気ループの設置、拡声機能のある電話機、
テレビ電話の設置などの補聴援助システムの整備、それから、電話リレー
サービスや遠隔コミュニケーション支援サービスの利用の確保を図って
いただきたいと思います。

電話リレーサービスは、欧米では通信事業者の義務的な事業として必ず実施
されていますが、日本ではまだ義務化されていないため、一部の企業が
ボランティア的に行っている、あるいは試験事業として行っているに
留まっています。」

 「就業場面での合理的配慮は、必要なタイミングを外しては意味が
ありません。
コミュニケーション支援に当たっては事後救済ではなく、即時的救済が
可能となる施策を講じてください。
つまり、要約筆記者の派遣を難聴者が希望した時に、会社が費用を負担
するのか、個人の負担なのか、あるいは地域生活支援事業の福祉サービス
として派遣するのかという問題がありますが、それは後で解決すればいい
ことであって、まずは派遣するというようなことができるような施策が必要
だということです。」


○新谷氏
 「50歳の時に全く聞こえなくなっています。
そのような人間にとっては、まず一番の問題は、自分が聞こえなくなった
ということをなかなか告白できない
ということです。
今俗にいうカミングアウトですね。
皆さんに私が聞こえなくなったということを言うことが簡単にできない
わけです。
ということは、事務的な管理的な仕事をしておりますと、ほとんど
日本の場合には、会議、電話、打ち合わせで仕事が進んでいきます。
皆さんも想像がつくと思うんですけれども、そういうふうな
コミュニケーションが明日からとれなくなったということを皆さんの
前で告白するということは、どういう意味をもつかということを考えて
みますと、まず考えることは、やはりこの仕事を失うのではないか、
職場から解雇されるのではないかということを非常に恐れます。
そういう心理的な葛藤が非常に長く続きますので、簡単に交通事故で
手足がなくなったとか、それも大変なことなんですけれども、
そういうふうな
障害と違って、簡単に自分の障害を告白できないというような
心理的なものがあります。
 現実に、明日からの会議やいろいろな仕事に支障が
ございますので、仕方なくそういうことを打ち明けざるを得ない
んですけれども、会社にかなりの理解があっても、現在の職場では、
例えば職場の仕事を変えるとか、職種を変えるとかするということを、
会社としてはそういう最大限の配慮みたいな形になっています。
ただ、当然のことながら、その時にはかなり大きな年収のダウンは
覚悟しなければいけない。
普通の場合、会社はそんな配慮はしないとは露骨には言わない
でしょうけれども、実際にはそういう配慮をしない状態が長く
続いてきます。
ということは、そういう労働環境にいる、そういう中途で聞こえなく
なった者が自然と退職せざるを得ないような状況に追い込まれて
いきます。
それで、私の仲間でも、聞こえなくなって、何人か退職しました。
私の場合には、会社で耐えて、いろんなことで頑張りましたけれども、
その頑張るのもやはりかなりの努力が必要です。
 そういう時に、日本の社会は、例えば、セクハラの場合は会社の
相談機関が大体の場合にございます。
会社の中にそういうところが出来上がっています。
だけど、私たちが聞こえなくなった問題を相談する一応の窓口は
ありますけれども、本当に聞こえない者のことを分かって相談に
のっているような窓口は会社の中にありますか。
私どもは、単にコミュニケーションがとれないだけで、仕事の能力、
事務能力が決してなくなったわけではありません。
何らかの支援があれば、仕事ができる状態にあるわけなので、
もし会社の中に、きちっとしたそういう相談窓口があって、
その人間にとって仕事が継続できる然るべき配慮があれば、
まだまだ社会的な能力が発揮できるにも拘わらず、
そういう多くの人間が今、止むなく退職に追い込まれたり、
あるいは、いろんな職場の中で、隅っこに追いやられている
という状態があります。

 
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以下は、私の思ったことです。

>「…ところが、日本では、身体障害者福祉法の第6級に該当する
聴覚障害者は70デシベルなんです。…」


これは(社)全難聴(→http://www.zennancho.or.jp/)の
主な運動のひとつである『デシベルダウン運動』の根拠に
なっていると思います。

ところがどういうわけか、これに反対する聴覚障害者団体の
人も存在しています。

理由は

「我々の聴覚障害者福祉予算が、
難聴者に奪われてしまうから遠慮しろ」

という声もいあるからのようです。
私はその団体に入っていますが、
こういう会員の声には正直、
不快感を覚えますし、反対です。

さまざまな障害による、
その垣根をつくってしまっては、
それこそ心の障害者だと思います。

互いの違いを理解し合い、
ひとつになろうとしてこそ、
障害者は素晴らしいのではないでしょうか?


>「障害者の企業就職の集団面接が行われていますけれども、
そこで要約筆記者、手話通訳者を配置しても、
本当なら必要な聴覚障害者、難聴者も手話通訳を利用しません。
何故かというと、企業に採用される時に、手話通訳を使わなければ仕事が
できないのかと思われるのを避けるために、私は聞こえます、大丈夫です、
口が読めますというふうに言ってしまうんですね。」


当ブログでも

 →『難聴者の会社面接対策(2)』(2011-07-06 20:37)参照。

 →『難聴者の会社面接対策(3)』(2011-07-07 20:55)参照。


>「就労した後に、十分なコミュニケーション支援が得られず、
離職、転職、昇進の差別など、多くの問題に直面します。」


 →難聴者に限らず、聴覚障害者の場合は、就職以上に、
就労後が大変だということは、
一般の人にはまだまだ知られていないと思います。

【参考資料】
 →http://www.zentsuken.net/pdf/houkoku2010_02.pdf

当ブログでもカテゴリー『就労後の聴覚障害者問題』で、
具体例などを取り上げて、理解促進へと導いていきたいと思います。

勿論『就労前の聴覚障害者問題』も、特に中高年の方々で、
まだまだ残っていますが。


>「障害者雇用納付金制度が
ありますけれども、就労・労働場面では、障害者介助等助成金を雇用者側の
合理的配慮を補完するものとして、明確にし、必ずこうした助成金を活用して、
就労の促進を図るということです。」


 →助成金を生かさない会社が多い、という事実を指摘しています。
企業悪の放置を改善して、助成金をもらっているからには、
企業は就労した聴覚障害者への合理的配慮を実施するようにほしい、
ということだと思います。


>「聴覚障害の場合、障害者介助等助成金は手話通訳は対応して
いますけれども、要約筆記あるいは盲ろう者の通訳などには対応していません。」



 →難聴者や盲ろう者(ここではおそらく、盲・難聴の方に
ついてだと思われます)には通訳をつけてもらえない、
というのが一般的です。
就労前の問題点としても、ハローワークには手話通訳のつく
相談日はあっても、手話がわからない聴覚障害者に適した
相談日は設定されていません。
例えば

「ハローワークでは、要約筆記は準備できない」

と言われます。


>「要約筆記者の派遣など、人的支援に
止まらず、会議室での磁気ループの設置、拡声機能のある電話機、
テレビ電話の設置などの補聴援助システムの整備、それから、電話リレー
サービスや遠隔コミュニケーション支援サービスの利用の確保を図って
いただきたいと思います。」


 →これは、高岡氏は合理的配慮の面で言われていますけれども、
もしこれが実現すると、障害者も含めた社会全体の経済効果は
すごいのではないか、と思います。
障害者福祉機器製造・販売業者に聞いてみれば、
この意味はわかると思います。


>「就業場面での合理的配慮は、必要なタイミングを外しては意味が
ありません。
コミュニケーション支援に当たっては事後救済ではなく、即時的救済が
可能となる施策を講じてください。」


 →いつまでたっても、やろうとしない会社が多すぎると思います。
その結果、聴覚障害者は次第に、その存在感を失ってゆきます。


>「自分が聞こえなくなったということをなかなか告白できない」
>「心理的な葛藤が非常に長く続きます」


 →この心理は、案外、なかなか理解してもらいにくいようです。
試しにあなたが明日から、耳栓をして会社に行ってみるとよい
のではないでしょうか。
通勤だけでも疲れてしまうかもしれませんが。

【参考資料】
→http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/news/news0809.pdf


>「…日本の社会は、例えば、セクハラの場合は会社の
相談機関が大体の場合にございます。
会社の中にそういうところが出来上がっています。
だけど、私たちが聞こえなくなった問題を相談する一応の窓口は
ありますけれども、本当に聞こえない者のことを分かって相談に
のっているような窓口は会社の中にありますか。…」


 →偶然、私もこれと全く同じことを、会社の労働組合に
提言したことがあります。

障害者になったら、もう労働資源としての価値なし、
という健常者中心の社会的判断は、本当に正しいのでしょうか?

実際はよく

「それじゃ、もったいないじゃないか」

という声も聞きますが。


その他に、難聴者には次のような問題点もあると思います。

ハローワークの専門援助第二部門(障害者採用枠の担当)を
利用できない難聴者の場合、一般求人雑誌による応募だと

「電話問い合わせをしてから」

が一般的になるのに、電話に不自由をするため、
応募段階から失敗の連続になったり、
それでいて国の障害者認定基準からも

「聴覚障害者でない」

とされており、企業からも

「障害者手帳を持っていない障害者は受けつけません」

と言われます。

そういうわけで、日本の難聴者はかなり苦しい状況におかれています。
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by bunbun6610 | 2012-02-15 19:47 | 就労後の聴覚障害者問題B
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ある聴覚障害者から見た世界


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