職場における、ろう者への手話通訳の問題点

就労後の聴覚障害者問題(Q社)

20■■年■月■日

会社の人事部主催セミナーに初めて
聴覚障害者が参加し、そのときに
情報保障(手話、パソコン要約筆記通訳)
も初めてつきました。

私はパソコン要約筆記通訳、ろう者の
Aさんは手話通訳を利用しました。
セミナーは予想通りに、パワーポイントも
併用しながらの音声説明で、時折、
パワーポイントにはない内容の配布資料
も見る必要がありました。

聴覚障害者の場合、これに情報保障も
見なければなりません。
これは、音声情報が聞こえる健聴者とは
違う点ですので、健聴者の読者は、
よく頭の中に入れて考える必要があると
思います。

手話通訳利用の場合だと、メモを取る
のが難しく、実際にAさんはメモを全く
取っていませんでした。

ただずっと、手話通訳を見ているだけで、
パワーポイントや配布資料までは、
ほとんど見ていないような感じでした。

セミナー終了のとき、手話通訳者たちは、
Aさんに通訳が理解できたかどうか、
聞いていました。

Aさんは正直に私にも

「難しすぎて、わからない」

と漏らしていました。

終わった後、アンケートを書いて提出し
ましたが、Aさんはほとんど書けなかった
し、

「内容が難しすぎて、わからなかった」

を繰り返していたので、これは当ブログ

『健聴者が考えた聴覚障害者情報保障の問題点 (3)』
〔2011-11-21 19:48〕

で述べていたことと同じ問題なのだろうと、
思ったりしていました。

数日後に、またAさんと会い、なぜ手話
通訳を利用しても内容がわからなかった
のか、理由を聞いてみました。
これは聞き方も難しいので、私のほうから、
こう聞いてみました。

「セミナー説明者の音声日本語を、
手話通訳者は日本語対応手話ベースで
通訳するから、
(日本手話を母語とする)
Aさんはそれを頭の中で日本手話に
変えて、理解するのが難しくて、
よくわからなかったのですか?」

Aさんは「そうです」と答えました。
そして、さらに自分の話も付け加えました。

「その言い換えには、時間がかかる。
(タイムラグが発生する)

しかし、手話通訳のスピードが速くて(※)、
自分の頭の中での言い換えが追いつけ
なかった」

というのです。

※(というよりも、説明者の話し方が
速過ぎるのかもしれないが、
私たち聞こえない者には、
それはどうなのかわからない)

なるほど。
難聴者だって、日本語対応手話を見て、
それを頭の中で日本語に変換して
考え理解するので、そういう作業は時間
も要し、疲労もします。
手話通訳に詳しい人ならば、これが大変
なことはよくわかるはずです。
手話通訳者が2人いて15~20分ほどで
交代し、休みに入るのもこのためなのです。

ところが、聴覚障害者の場合は交代
なんていません。
2時間の長丁場でも、です。

この理由もあって私は、時々目を離せる、
パソコン要約筆記通訳を選択しているのです。
さらに首痛も、手話通訳が無理な理由です。

Aさんの職場コミュニケーションの方法は
筆談で、手話は全くありません。
普段は、日本語対応手話も目にすることが
ないのです。
そのため慣れていない、ということもあると
思います。

しかし、それにも増して筆談はゆっくりなので、
頭の中で日本手話に言い換える時間的余裕
があります。
しかし、手話通訳は音声説明に合わせて
スピードも速くなるので、そうはいかないの
だと思います。

それに、説明者の説明は、音声日本語だけ
でなく、パワーポイントや配布資料も併せて
見ることによって、初めて完全に理解できる
のではないか、と私は見ています。

ということは、やはり会社のこうした場での
情報保障には、この時にだけ、単に手話通訳
をつけるだけでは、聴覚障害者対策としては
不十分なのだろう。
そう考えると、やはり、三宅氏のあの言葉を
思い出します。

 →当ブログ
『健聴者が考えた聴覚障害者情報保障の問題点 (1)』
(2011-11-16 21:13)

参照。

会社側の工夫不足は明らかです。

結局、Aさんは日本語対応手話の通訳も
読み取れるが、それを十分に理解するため
には、やはり自分の頭の中で日本手話に
翻訳しなおさなければならない、
というわけです。

この話を聞いていたBさんは、セミナーに
参加させてもらえなかったろう者ですが、
こう話していました。

「そういう場合は、手話通訳者を変えて
もらったらどうなの?」

しかしAさんは

「いや、それでもムリだ」

と、諦め口調でした。
自分の世代は、ろう学校でも手話で勉強
できなかった(手話禁止だった)から、
日本語対応手話の通訳では
わからなくても当然だと。

これは、昔のろう学校教育の悪いツケ
(差別)が、Aさんたちの世代に回って
いることを意味しています。

セミナーや講演は、この次にもまたある
と思いますが、このままではAさんは
どうするというのだろうか。

黙ってガマンし出席するのか、それとも、
以前に逆戻りして

「自分は欠席で構いません」

とするのだろうか。

他の方法は、そのときの情報保障の
問題点を会社にも派遣センターにも
正直に伝え、改善に動いてもらうこと
だろう。

しかし、Aさん自身は、これをやろうとは
していません。
なぜだかは、私にもわかりません。

私が思うには、Aさんは改善要望を
出したほうがいいに違いないが、
そうすると会社は誤解して、
ガッカリしてしまう心配もあります。

そもそも、会社には、ろう者のことなど、
全くと言っていいほどわかっていません。
それで専門の通訳者派遣センターに
高い通訳費を払ってまでして、自分たちに
はさっぱりわからない手話通訳を、
ろう者のために用意した、というのが
正直なところだろう。

それなのにろう者が

「わからない」

と言ったら、会社としてはもう

「他に方法など思いつかない」

と言うかもしれない。

それだと会社はろう者への評価を
下げてしまい、今後はろう者を雇用しなく
なってしまう可能性もありえる。
こういう心配もあります。

これは、働くろう者全てに関係してくる
問題です。
また、会社での手話通訳の問題点としても、
長いこと考えられてきています。

手話言語法も、もしかして、
こういう問題解決の切り札とするため
なのかも知れません。
健聴者や難聴者と同様に、
言語特性と通訳の関係は当然ありますから。


さらに、ろう者への能力評価などの
差別問題とも、関係があると思います。

言語能力=仕事能力 なのでしょうか?

今までの健聴者社会の考え方は、
まさに言語至上主義ではないでしょうか?

外国人に通訳は使って当たり前なのに、
なぜろう者が手話通訳を使うことはダメ
なのでしょうか?

いろんな疑問が出てくるのではないか、
と思います。

「ろう者への評価が低い」ということとして、
思い当たることは、Bさんが今回のセミナー
に参加していない理由にも考えられる
のではないか、と思います。

Bさんの職場の、健聴者のコミュニケーション
方法にこそ問題があると私は思うのですが、
健聴者のほうは、そうは思っていません。

「上司は上司だから、上司のほうに
合わせるのが当たり前。
上司の言うことが分からなくては、
Bさんは使い物にならない」

と考えているのではないでしょうか。

会社であっても上下関係と、
コミュニケーション問題は別の話だと思います。
封建社会の遺物そのもので、その上司は

「会社では、こっちが上の立場なのだから、
障害者への合理的配慮は別の話だ」

と言っているのに等しい。
Bさんと上司のコミュニケーション状況を、
私は目撃しましたが、上司は筆談ボートに
仕事の言葉を単語だけあちこちへ書いて、
あとは声とわけのわからない身振り
(イライラしているような感じ)
で説明していました。

後で、私はBさんに

「この前、Bさんと上司との筆談コミュニケ
ーションを見ました。
でも、私にはその内容がさっぱりわかりま
せんでした。
Bさんはわかったのですか?」

Bさんは意外にも「わかった」と言っていました。
もしかして、Bさんは読話の達人なのかも
しれません。

しかし、それでもセミナーまで通訳なしでは、
理解することは難しいのではないだろうか。

だから、Bさんも手話・パソコン要約筆記
通訳のつくセミナーに一緒に参加しなかった
のは、理解できませんでした。
そのセミナーは、全社員出席が義務付け
られていたから、なおさらでした。
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by bunbun6610 | 2012-02-03 00:12 | 情報保障・通訳(就労)


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