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音声会話で聴覚障害者とうまく話す方法 ――私との場合

健聴者は「聞くこと」と「話すこと」の両方において、
音声コミュニケーションが可能です。
しかし私の場合は、「聞くこと」は視覚情報によって、
「話すこと」は音声によって、コミュニケーションが可能です。

この条件では、健聴者と私がコミュニケーションをとるということは、
不完全さが生じます。
しかし、だからといって、全く不可能ではないのです。

それは相手(の配慮)によって可能であったり、
不可能になったりします。
だからこそ、相手である健聴者次第とも言えるし、
健聴者が聴覚障害者とのコミュニケーション方法をもっと学んでもらえたら、
聴覚障害者から見た社会環境は、どれだけ良くなることだろう、
と思うのです。

私は健聴者に対して、どうしても「筆談で」とは求めていません。
お互いに音声だけでもコミュニケーションが可能な場合は、
結構あります。
(それは、その人のコミュニケーションが上手いからなのですが)

しかし、それがたまたまであるからなのか、
健聴者は聴覚障害者とどのようにコミュニケーションをとれば、
それができるのか、案外気づいていないのではないでしょうか?

ある健聴者は
「先天性の聴覚障害者には、口を読み取れる人が多い」
と言います。
それだから、コミュニケーションが成立している、と。
それを言われた健聴者の経験では、確かにそうなのかもしれません。

でも私は、先天性聴覚障害者なのに、
口を読み取ることはうまくありません。
しかしそれでも、会話が成立してしまう場合があります。
コロッケさんが言っていますが、私も想像力を使うタイプです。
それは、言葉を想像する力です。

その想像力で
「あなたが耳の聞こえない人なんて、信じられない」
と言われることも、しばしばです。

私にはわかっています。
健聴者と私との間で、音声だけでコミュニケーションが成立する理由も、
またその逆に、成立しなくなる理由も。
しかし、それを体験できない健聴者にはわからないようです。

それを今回、お話しましょう。
本当はこんなのって、完全に自由な、
双方向性のコミュニケーションではないので、
そういうコミュニケーションを望む場合には
使えないのですけれども。

でも、知っておくと便利には違いないと思います。
例えば、私と似た聴覚障害者に出会ったとき、
筆談も使えない会話が必要になった時とか。

この方法は、当ブログ『耳が不自由でも会話をする方法』(2011-07-25 21:18)
でも述べていて、その延長と言える話です。
そのときは
「聴覚障害者はこんなテクニックを使っているから、
あたかも聞こえるように会話ができる」
というわけで話しました。
しかし今回は
「健聴者もこうすれば、難聴者や中途失聴者、
耳の遠くなった老人と音声会話ができる」
という話になります。
ただ、これだって結局は、
「聴覚障害者が得意とするコミュニケーション方法を逆利用する方法」
に過ぎないと思います。

【音声会話だけでもコミュニケーションが成立する場合】
講演会や会議など、難しい話が多い場面ではなく、
短い言葉でやりとりする会話に有効な方法です。

難しい話でも、短く区切って、聴覚障害者にその都度、
理解を確認しながら話してゆけば、通じることは可能なので、
積極的に工夫し、応用してみてはいかがでしょうか。

よく「コミュニケーションって何?」という話がきかれますが、
それが「まず相手の話をよく聞く」とか
「相手(この場合は、聞こえない人)の立場を理解しながら話し合う」
とか言われていますよね。

聴覚障害者と音声会話ができる健聴者は、
たまたまなのか、あるいはもしかして、
そういうことも上手にできる人なのかもしれません。

先に聴覚障害者に話させたり、聞かせることがコツです。
例えをいうと、お客様(聴覚障害者)と店員(健聴者)の関係になるのです。
仕事のやり方を説明する場合だったら、次のようにです。

健聴者;「これ、何の仕事だかわかる?」

中途失聴者;「『封入』という作業ですよね」

健聴者;「そう。今まで他の人がやっているのを見てた? それなら、やってみる?」

中途失聴者;「テーブル001から004までの合計数を算出しますよね?」
        (自分がこの作業をやりながら、話す)

健聴者;「そう」

中途失聴者;「それからトータルの送付状の数字と合っているかどうか、確認する」
        (自分がこの作業をやりながら、話す)

健聴者;「そう」

中途失聴者;「それから、各テーブルをまとめて、トータルの送付状と一緒に封筒に入れる」
        (自分がこの作業をやりながら、話す)


健聴者;「違うよ。各テーブルの送付状は外す」(A)

中途失聴者;「各テーブルの送付状は外して、トータルの送付状とともに封筒に入れる」
        (自分がこの作業をやりながら、話す)

健聴者;「そう」

中途失聴者;「あと、えーと…何だっけ?」

健聴者;「この表を見て、それに合わせて返信用封筒を同封するの」(B)

中途失聴者;「あ、そっか。こうして、と」
        (自分がこの作業をやりながら、話す)

健聴者;「それから、各テーブルの送付状をまとめて、封筒の前面にクリップで留めておくの」(C)

中途失聴者;「なるほど、わかりました」
        (自分がこの作業をやりながら、話す)

特に、実際にその作業をやりながの会話(健聴者が説明するのではない)だと、
視覚情報も使えるので、音声情報が一気に減ります。
そうすると、聴覚障害者にも理解しやすくなるのです。

(A)(B)(C)の音声説明が出ていますが、これも聴覚障害者には、
どうしても必要なものではありません。

健聴者が手本(やって見せる)を示してみれば、すぐにわかることですから。
難聴でもない私には、音声でわかるまで繰り返し説明するよりも、
そのほうがずっと早いです。
私は見て覚えるタイプで、聞いて覚えることはできませんから、
その特性を理解することが、職場での聴覚障害者理解につながるのです。

そういうことを、会社の人事部にも教わっていないでしょう。
だから、どんな方法がいいのかは、
その障害者に聞くことが大切なのです。
会社は健聴者中心の社会だからといって、
そうやってしまってはいけません。

どうしても音声や文字での説明が入ってしまうのは、
見せることができない説明をする場合です。

たとえば、「もし、こうなった場合には」というケースを、
実際にやってみせることができないときです。

そういうときは

「そのときになったらまた説明するので、聞いて下さい」

と言うのも一つの方法です。

ところが、自分の音声コミュニケーションでの説明に執拗にこだわる健聴者だと、
聴覚障害者は何度聞いてもわからなかったり、ミスを繰り返してしまったりして、
それまでの説明も、頭の中でゴチャゴチャになってしまったり、
忘れてわからなくなったり、またそれを聴覚障害者が理解するまで、
ものすごく時間がかかります。

聴覚障害者とは筆談でないと完全なコミュニケーションは無理、
と決めつけている健聴者の場合も、きちんとした日本語文章で書くので、
時間がかかっています。
でも、それを読んだからといって、頭に入るとは限りません。
あるいは、書いていることが理解しにくくて(説明力、文章力の問題もある)、
結局、やってみなければわからないことも、よくあります。

それよりも、聴覚障害者の見る力、想像力が生かせる方法を使うと、
有効なのですが、健聴者は音声や文字ばかりにこだわって、
なかなかやろうとしないのですね。
本当に残念です。
人の能力を発揮できるコミュニケーション方法は、
人それぞれだということを、健聴者ももっと知ってほしいと思います。

常に情報を共有しながらのほうが、理解は進みます。
健聴者としても、自分の音声や文字で説明しても、
やはり最終的に聴覚障害者の想像に任せるのでは不安なので、
中途失聴者が何を理解したのか、オウム返ししてもらうほうが、
より確実なコミュニケーションになるのではないでしょうか。

自分の言った言葉と同じにならなくても、
相手(中途失聴者)が意味をちゃんとわかっていればよいではないですか。

ただ、オウム返しの前提として、聴覚障害者がわからないと、
あるいは想像できないと、無理なのです。
わかっていないと、うなずいているだけとか、
ニコニコと笑っているだけだったりします。
実はこれは黄色信号で、「聞こえているんだ」と思わないほうがよさそうです。
これがあるようなら、中途失聴者がより確実に答えてくれる方法に変えたほうが、
いいと思います。

自分ばかり音声だけでしゃべらず、とにかく聴覚障害者が何を理解したか聞き、
答えがOKならOKサインを出し、違うなら別の方法で説明するのがよいと思います。

結論を先に言い、理由はその後に短く言う、
という方法も音声コミュニケーションを通じやすくするコツになります。


【音声会話だけのコミュニケーションが成立しなくなる場合】
上にも述べていますが、健聴者が一方的にベラベラとしゃべるだけとか、
今どこまでわかっているのか、聴覚障害者に確認をしないで、
最期まで話してから「わかった?」とか「わからないことがあったら、聞いて下さい」
と言うような健聴者とは、コミュニケーションの成立は難しいです。

長い話を言い終わってから「わからないのなら『わかりません』と、早く言え」
という健聴者のほうがおかしいのです。

聞こえもせず、想像も難しい状況のときは、質問もしにくい、
ということも理解しなければいけないと思います。

音声会話で聴覚障害者とうまく話す方法 ――私との場合_a0196876_01252.jpg

by bunbun6610 | 2011-10-09 00:11 | 言語的バリア&バリアフリー

ある障害者から見た世界


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