健聴者の無理解

私がまだ難聴だった頃、手話通訳者にこんなことを言われたことがあります。

「難聴者はしゃべれるから、(ろう者よりずっと)いい」

「難聴者は言いたいことがあれば、自分で言える。
でもろう者は言えない。
だから、ろう者のほうが大変だよ。」

これは健聴者がほぼ100%思い込んでいます。
常に比較してどっちが、と言うのが、健聴者というものです。
難聴に詳しい、ごく一部の健聴者を除いては。

なるほど。
確かに耳が聞こえなくて、話すこともできないほうが大変そうだし、
それは理にかなっている推論だと思います。
映画『ゆずり葉』にも、特に昔のろう者の苦しみがよく描かれています。
しかし、果たしてそう断言できるだろうか。

私の周囲の健聴者も皆、同じようなことを言うのを、今まで随分聞いてきました。

奥野英子氏(筑波大学シニアアドバイザー)はこんなことを言っていました。

「自分で言わない難聴者は甘い」

実は「難聴者が言えない理由」には、コミュニケーション障害と難聴者心理の
2つが関係しています。
どちらも健聴者には全く見えていないので、健聴者が気がつかないのも
当たり前です。

初めはコミュニケーション障害だけで、自分でどうにかしようと、あれこれ
考えてみたり、補聴器を買って試したり、あらゆる努力をしてみます。
しかし、自己努力に一生懸命なその頃はまだ、他者の理解を得ることが
非常に大切だとは、あまり意識していない場合が多いと思います。
障害の自覚もまだ十分ではないと思います。

一言で難聴は、「障害の受容に時間がかかる」と言われていますが、
これは最低でも数年、長ければ十年、二十年とかかります。

なぜそんなにかかるのかというと、一番の理由は、社会的な取り組みが
ないからだと思います。
もし普及した考え方があるなら、難聴者だってその通りにするでしょう。
しかし、今の社会では難聴は当たり前のように存在するのに、
その割には、取り組みが広まっていないと思います。

その原因は、身近な人の誰もが

「難聴なんて、大したことはない。
本人次第だ」

と思っているからではいないでしょうか。

周囲の人は、落ち込ませたくないと思ってそういう声をかけるのだと
思いますが、それが難聴者の心に「理解はしてもらえないのか」と感じさせ、
孤独感を大きくし、他者に協力を求めるのを諦めてしまいます。

難聴者の立場から見ると、

「難聴は周囲の理解を得るのが難しい」

と思い、ますます一人だけで悩むようになります。
その悩みは、生涯続いてしまう人もいるだろうと思います。

あきらめるのは当然です。
社会の無理解が、難聴者をいっそう、負のスパイラルへ追いやってしまう
のです。
それが「言えない」難聴者の心理の正体ではないかと思います。

奥野氏に見せた難聴者のビデオ(全難聴作成)には、2つの難聴者生活体験
の事例がありました。

1つは、道を歩いていた難聴者が、補聴器をつけていたにもかかわらず、
車が接近していることに気づきませんでした(これはちょっとオーバーで、
おかしいのかも?)。

車は、気づかない難聴者の真横を通り過ぎ、ドライバーは

「バカヤロー、どけっての!」

とか叫んでいた場面です。

これは、難聴者が一方的に悪いわけではありません。
社会の人々の、難聴者についての認知不足の問題もあると思うのです。

もう一つのストーリーは、病院の待合室で待ち続けていた難聴者が、
自分の名前を呼ばれても気づかず、とうとう最後の一人になるまで取り残され
てしまう、というドラマです。

これは、実は私も過去に同様の経験があります。

私は受付に「難聴です」と伝えていました。
受付はその対応方法として、私のカルテの表に「難聴」と書いただけでした。
その後、また各科の受付へそれを入れて待つのですが、病院全体での
難聴者対応が周知徹底されていなかったため、その後は、健聴者と同じ扱い
になってしまったのです。

待っても待っても、呼ばれたような気がしなかったので「おかしいなぁ」と思い、
受付に

「僕の番はまだですか?」

と聞いたら、

「もう呼んだのですが、来なかったので…」

と言われて、

「やっぱりここの病院の対応はダメなんだ」

と思いました。


「言わなければ、相手はわからない」

ということは難聴者もわかっています。
だから私の場合は、受付に責任を持って対応してもらえるように言いました。
しかし、言ってもこのような結果になってばかりでは、次第に諦めていくのも
無理もない、と思います。

もし相手がわからなければ、怒鳴ることもありました。
でも、周りの人は事情も知らず、不快な思いをするだけで、理解するどころか、
私への視線の様相も異様に変わります。

それでも耳が不自由のまま、話しをするのは圧倒的不利だとわかっている
のですから、怒ってしまった後は、自分も後悔するだけです。

健聴者もそろそろ、難聴者のありのままを認め、受け入れたらどうなのでしょうか。

ちなみに、先天性難聴障害から聴こえなくなっていった私の体験では、
難聴の時期、とりわけ両耳の聴力が80dBを超えてきた頃が、最も苦しかったです。
(実際は聴力だけでなく、語音明瞭度の測定結果も重要なのですが、
その検査はなかなかやれず、正確にはわかりません)

むしろ、聞こえなくなってしまったほうが、楽になったというか、周囲の理解も
容易になりました。
(その一方で、こんなに悪くならないと、健聴者は「聞こえない人」だと認めて
くれないのか? と、恨めしく思ったものです)

この体験談は、最初に述べた手話通訳者の話(考え)をひっくり返してしまう
でしょう。
聴覚障害についての専門知識を持つ手話通訳者でも、難聴者心理までは
理解できていないのですから。

難聴の苦しみゆえに、私は幼少期から自殺未遂や非行歴もあります。

そればかりでなく、難聴時代のときに芽生えた、健聴者への怨みは、
今や消えることのない記憶となっているのです。
健聴者の思い込みは、間違っています。
それを手話サークルで、社会で言っているのだとしたら、とんでもないこと。
障害者のことは、障害者から学ぶべきです。


言いたいことはもう一つあります。
それは、手話通訳者、手話通訳士でもなく、本当に中途失聴者、難聴者を
理解している専門的支援者が、これからは必要だと思います。

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by bunbun6610 | 2011-08-02 23:14 | 聴覚障害


ある聴覚障害者から見た世界


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