聴覚障害者への情報保障・通訳について(2)

【C.健聴者の通訳の事例から】
これは、一流企業の社長(年齢は当時、70歳を超えていた)が、顧問に外国語
(英、仏など)通訳者S氏をむかえていて、
外国で主に重要な商談などをするときの通訳なので、公的派遣の聴覚障害者対象
通訳とは、全然違うということをご理解ください。

公的な通訳は、私的な通訳と違うということを理解する話かな、と思いますが、
あるいは聴覚障害者も本当は
「公的派遣でも、こんな通訳をしてくれたらいいな(個人依頼の派遣に限るが)」
という声があるかもしれません。
それがいいかどうかは置いといて、の話としてです。

それでは、話をS氏の通訳の姿勢の話へ移ります。

S氏はインタビューで、次のようなことを話していました。

「私は通訳者としてはダメなんです。
どうしてかというと、社長や相手の話す通りには通訳しないからです。

話し手の言いたいことは何か、それをまず自分が理解し、要するにこうなのだと
いうことを伝えています。
話し手が外国の方であると、その国の社会的慣習、言語、コミュニケーションの
文化など、日本と異なり、
辞書を引いたように訳しても、聞き手に意味がよく通じないこともあります。
だから、私はそういう訳し方はしないのです。

一方、社長が話されることを外国の方へ通訳するときも、やはり、日本語の意味、
社長の言いたいことを外国の方に伝わりやすいように訳します。
社長が何を言われたいのかは、社長との普段からのおつきあいがないと、
読みとれるようになりません。
だから、社長とのおついきあいも大切にしています。」

この話を聞いて私が思うのは
「通訳とは、やはり本来は中立的立場で、相手の言う言葉を忠実に訳して伝える
のが仕事なのかな」
ということです。
丁度、大きな新聞社ほど、中立的というか、事実を正確かつ客観的に伝えようと
しているのと同じように、です。
通訳の双務性という言葉もありますが、公的派遣の場合は、聴覚障害者のためだけの
通訳として存在するわけではありません。
そういう意味でも、読み手はろう者であっても、話し手は日本語を話す健聴者である
以上、言語の使い方は当然に違います。
公的派遣の通訳では、おそらく通訳者が介入してその違いを調整するのではなく、
その違いを知るべきなのは、利用者双方の問題なのだろう、と思います。

ですから、公的派遣によって忠実な通訳が提供された後は、それを利用者がどのように
扱うか、理解するか、その理解力の問題だ。
だから通訳者はそこまで(突っ込んだことは)しない、ということではないか、と。

このような異国での通訳にしろ、ことらの聴覚障害者への通訳にしても、相手の
言いたいことをつかんで通訳する、ということは大変に難しい通訳技術となる、
と思います。
もし、そのように訳しておいて、後の話を聞いているうちに「どうもさっきの訳は、
少しニュアンスが違っていたみたいだな」と思っても、
講演会等の公的派遣では取り返しはつきません。
だから通訳は、できるだけ忠実に訳し、理解は利用者に委ねるのが基本なのかも。
通訳の初心者も、まずこうしているのではないかと思います。
通訳者が意味の良くわからないような話を聞いても、通訳としてはそれをそのまま訳し、
利用者に伝え、判断は利用者にしてもらうのだろう、と思います。
その証拠に、通訳を見てわからなくても、通訳者からは「わからなかったら、
相手に聞いて」とよく言われます。

聴覚障害者対象では特に、手話通訳が、日本語で話していることを日本語対応手話で
表出すれば、こうなるのでしょう。
ところが、これではろう者にはよくわからない、という問題が、以前から起きています。

先ほどの社長も、年齢は70歳を超えており、そのためにおそらく、長々とした通訳を
聞くのは苦手と思われます。
それに、社長は難聴であり、補聴器をお使いになっているので、長い通訳は余計に
ストレスになり、理解度も落ちてしまうのかも、しれません。
さらに、社長業をしている人が、細かい話まで気を遣っている余裕なんてある
でしょうか?
「要点は何だ? それを早く言え!」
という気持ちが、通訳を介して聞いていると、あるのかもしれません。
社長は忙しい身で、考えなければならないことはたくさんあるのだから、通訳の話は
短いほうがいいのかもしれません。
私的通訳だからこそ、こういう配慮までできるのだと思います。

そんなことを思いました。
公的派遣としての聴覚障害者への通訳事業は、
利用者が要望しても、これと同じようにはできないと思いますが、
それでも、利用者なりの気持ちはあるのではないか、と思います。

「公的派遣の通訳者も、通訳者認定試験に合格すると、もう聴覚障害者と交流しなくなる
のはなぜ?
もっと積極的に交流を続けてほしい」
という声を、利用者の聴覚障害者から聞きます。

それから、通訳者の本で読んだと思うのですが、
「双方の言語の性質が違うほど、通訳は難しくなり、高度なので費用も高くなる」
そうです。

例)アマゾンの原住民の言葉⇔日本人(日本語) の通訳  通訳は高度になる。
  高齢ろう者(ほとんど伝統的手話〔日本手話〕のみの使用者)⇔健聴者(日本語)
 の通訳  通訳は高度になる。


誰と誰の通訳をするかによって、通訳料も違うのは当然かもしれませんね。



【D.長瀬氏の講演から】(国連・障害者権利条約の考え方から)
通訳の総務性、費用負担のあり方について。

この話は、長瀬 修氏(東京大学大学院経済学研究科特任助教授)の講演
『障害者の権利条約―2006年12月13日採択―新たな人権の始まり―』
の、質疑応答の中からです。


質問者B(ろう者)/自立支援法が施行されてからは、手話通訳者派遣事業の
実施状況が各地域によってバラバラで、サービスが行き届いていない。
有料化したところも出てきた。これについて、何か意見を聞きたい。


長瀬氏/手話通訳は、利用者(障害者)だけに必要なのではない。
聴覚障害者とのコミュニケーションのために、病院、会社、公共施設にとっても
手話通訳が必要だということを理解することが大切だ(通訳の双務性)。
それが、社会でのバリアをなくすということだからだ。
よって、一方だけがその費用を負担すればいいというものではない。
社会全体で負担すべきという考え方もある。
だから、税金によって賄われる公的予算が使われるべきなのかもしれない…。
しかし、国も莫大な借金を抱えている状況で、財務省は厚生労働省に福祉予算の
削減を指示した。
福祉予算そのものの額は、大したものではないようだが、国の財政を立て直すことを、
皆で考えなくてはいけない。
障害者の社会参加のためには、サービスの充実は必要だが財源をどうするのか。
そこが頭の痛いところ。

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by bunbun6610 | 2011-08-01 22:24 | 情報保障・通訳


ある聴覚障害者から見た世界


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