聴覚障害者への情報保障・通訳について(1)

最近、手話通訳者から、手話通訳の話を聞きました。
また、過去に聞いた全要研(→)理事の講演や、健聴者の通訳の話も思い出しました。
この3点を話の材料にして、聴覚障害者の通訳について、考えてみたいと思いました。


【A.手話通訳の活動目的と手話】

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最近、手話通訳者から、次のような話を聞きました。

「ろう者のコミュニケーション言語としての手話と、手話通訳の手話は違う。
それに、中途失聴・難聴者が使う手話もまた違う。
手話通訳は福祉としての通訳を行うためにある。
よって、使用単語や通訳技術として用いる文法等も、(財)全日本ろうあ連盟の指導に
ならう。
だから、手話通訳者は皆、それを勉強し、さらに所定の研修を受けて手話通訳技術
の研鑽に務めている。
一方で、ろう者も中途失聴・難聴者も、手話通訳を勉強すべきで、勉強しないと
分からないのは当たり前。」

これを聞いたろう者からは、次のような疑問が出ています。

①「福祉って何?」
②「なぜ、ろう者のための通訳ではないの?」
③「ろう者から手話を学び、手話通訳もそれにならうべきだ」

このうち①と②は、私も同感でした。
③については、ろう者の立場からはそう考えるのが自然ではあっても、
立場が違えば、そうとは限らないのではないか、と思いました。

とにかく、ろう者からはトップ団体の全日本ろうあ連盟への批判も噴出するほどで、
団体は求心力を失いつつあるのではないか? という危惧もありそうです。
やはり、こうした結果になったことを、団体から会員に対し説明がなされないのは
残念に思います。
丁度、今の政治と同じ手法みたいですから、不信感が大きくなるのも無理はないと
思います。

特に「ろう者も中途失聴・難聴者も、手話通訳を勉強すべき」とは、具体的に
どうすべきだというのだろうか?
それって、どこですべき、誰に教わるべきなの?
 という、初歩的なことすら、会員の誰も知らないのではないでしょうか?

トップ団体が政令を出して、それで終わり。
それを広めるのは誰なのか?
おそらくは、誰もやっていなかったと思います。
広まるのも、広まらないのも、会員次第。
団体とは、そういうやり方。

丁度、新しい手話の研究開発、普及と同じ。
新しい手話を出してみて、広まらなければ、その手話は結局、消えていく。
宝くじを買ってみるのと同じことだ。

だから、今頃になって皆から「おかしい」という声が出てきているのだと思います。

それから、
「福祉って何?」
という疑問ですが、「社会福祉」なのか、それとも「障害者福祉」なのか、
それとも違うのかが、
全くわからないです。
社会福祉と障害者福祉にしても、両者の違いは何? という疑問も、素人にはある
と思います。
別々の目的なのか、それとも同じ目的のためにあるのかさえ、わからないです。

しかしおそらくは、同じ人間として、社会のなかで一緒に活動するための
コミュニケーション支援で、そのための福祉(手話通訳事業)と考えても
間違いないのではないか、と思われます。

聴覚障害者のためだけでなく、双方のために、社会全体のために公的派遣としての
手話通訳事業はあるのだと考えていいかもしれません。

しかし、それにしても③「ろう者から手話を学び、手話通訳もそれにならうべきだ」
は、どうなのだろうか?

もし通じない手話通訳だったら、お金をかけてまで通訳をつけても意味がない
のではないで
しょうか?
いやそれよりも、そのような押し付けはもしかして、ろう者への人権侵害に
なりはしないか?
 という疑問視も出るのではないでしょうか?

→当ブログ『誤解されている手話』(2011-06-18 21:25)参照。

そのときは聴覚障害者に原因があるということにし、結局、③の理由付けが後から
なされたと言ったら、疑い過ぎなのでしょうか?

③はやはり、②の疑問に対する、ろう者からの提案であり、これは自然な発想では
あるけれども、それでも公的派遣では、どこまで理解が得られるのか?
 という問題は残りそうです。



【2.全要研理事の講演から】
まずこれも、利用者(聴覚障害者)にどんな疑問や批判があるか、
ということを話し、その後に全要研理事の講演について話したいと思います。

聴覚障害者が公的派遣で利用できる通訳には手話と要約筆記の2種類があり、
利用者のニーズによって、選択されています。

これは要約筆記通訳のケースですから、利用者も通訳方法も、手話通訳とは異なります。

利用者は「日本語を読み、理解できる人」(中途失聴・難聴者のためだけではない)
ということだと思います。

このなかには、例えば、セミナー・講演会等の主催者が
「OHPパソコン・(手書き)要約筆記通訳(※)」を準備した場合、
障害者手帳を持っていない難聴者や、他の障害の認定があるが、
聴覚障害については認定されていない人にも利用できる、
といった公的にも広いメリットがあります。

(※)要約筆記の方法には、パソコン使う方法と、手書きの方法とがある。
OHPでは、それを投影する。
さらに、手書きにはOHPとノートテイクがある。

しかし、要約筆記に対する疑問や批判を言う人の多くは、やはり聴覚障害者、
そのなかでも特に、難聴者ではないか、と思われます。

よく聞くのは、次のようなものです。

①「要約し過ぎ」(情報の欠落が多すぎる)
②「要約せずに、もおっと書いて欲しい」(「できるだけ要約しないで書いて」という意味か?)
③「書くスピードが遅い」

上の①と②は、要するに同じことです。
③は、例えば皆と一緒についてゆけないくて、社会参加の意欲が薄れてしまう、という、
利用者の気持ちの表れだと思います。

①と②は技術的には制約があるので、要約筆記通訳の限界を理解したうえで、
上手に通訳を利用しようという気持ちが、利用者側に足りないことも考えられると思います。

それは③についても言えそうです。
要約筆記通訳のせいにするのは、全くおかしな話です。
こういうことを言う利用者は、不満でヒステリックになっているのではないか、と思います。
要約筆記通訳では決して満足しない難聴者のなかには、こういう人もいます。


ところで、全要研理事の講演から興味深かった話を、これから取り上げてみます。

話し言葉を全部聞き取って書くことはできません。
どのぐらい書けるかは、手書きで1分間に○~○文字、パソコンで1分間に○~○文字と、
ある程度の目安はあるそうです。
すると、「最低、○文字以上書けないといけない」という基準もあるのかもしれませんが。

それと、要約筆記通訳は、話し言葉の○○%に文字数を圧縮し、重要度の高い内容は伝わるように
するとか。
ここで「ケバ」と呼ばれる、意味のない繰り返し言葉などは、省かれるそうです。
ですから、話し手の言っていることを全部書くわけではないです。

しかし、話し手の方も聞き手の方も、普通はそんなことは全く知らないのようです。
おそらく、それで先に述べたような疑問、批判を言うのだと思います。


文字数の制約のなかで、肝心なのは内容をどうやって要約しているか、でしょう。
その要約理論の話は、もうあまりよく憶えていないのですが、自分の理解した範囲では要するに、
次のようだとします。


 ・忠実性というレベル軸があり、高いほど忠実性が高い。
 ・スピード(迅速性)というレベル軸があり、高いほど通訳スピードも速い。

この両方とも高くするのが理想ですが、現実には難しい。
両方とも低過ぎてしまっても、通訳として使いものにならない。
この両極以外の範囲内が、通訳として使われるが、その設定は場面によって変わり、
使い分けられる。

カメラで言うとちょうど、目的(撮影意図)によってT(シャッター速度)、V(レンズの絞り)
を変えて露出調整していることと、似ているようです。

それで例えば、芸術の通訳では忠実性を高く(原文に近く)しないと、
面白みとか魅力が伝わらないので、できる限りそうするらしい。
落語を要約してしまったら、利用者は面白くなく、ガッカリするので、
この場合の通訳では忠実性を重視しているようです。
しかしその分、スピードが落ちてしまうのはやむを得ないそうです。

コミュニケーションの場合は、例えば会社面接とか会議などでは、社会参加重視型で、
通訳文はなるべく短く、早く書き終えるようにしているらしいです。

セミナー・講演会の場合は、内容重視ですが、スピードはその分、少し下げても問題のない
場合にするそうです。

要するに、通訳の場面によって、利用者の目的に合わせて変わるそうです。

私も、他者に要約筆記通訳を準備してもらって、自分はそれを見ているだけのときは、
何も考えたことはなかったのですが、自分で依頼し、事前準備もやることになったときに、
初めて、要約筆記通訳を使いこなすには、ただ通訳者を手配するだけでは十分と言えないんだ、
ということに気づきました。

利用者が要約筆記理論を勉強する必要はないと思いますが、通訳とは何かとか、
利用するときはどのようにすればもっと良くなるのか、
ということは知っておいたほうがいいし、利用者ならそれができないとみっともないと
思います。

例えば、次のことは最低でもできなければならないと思います。

①利用の際、自分の席、通訳者の席はどこにすればいいか、自分で判断できるようにする。

②通訳者同行のときは、利用者が先方へ通訳者を紹介する。

③個人派遣依頼の場合、適切な用紙とペンを用意する。

④通訳者にも飲料、食物を出される可能性があると事前にわかっている場合は、予めお断りしておく。

⑤通訳に関わる、必要な情報・資料などがあれば、できるだけ借りておき、通訳者に事前貸与する。
できれば通訳日より前に情報提供したほうがいい。
これは、通訳の質、スピードに好影響する。

⑥自分の要望があれば、事前に伝えておく。多少の略記を増やす(その場限りの)程度は
認めてくれるので、それで通訳スピードがアップすることもある。筆記量が多いと、
話し言葉が速すぎる場合要約筆記者の負担が重くなり、文字が詠みにくくなっていく場合もあるので、
やはり長い単語が何度も出てくる場合は略記にしてもらったほうが、こちらも読みやすくなる。


以上のような点に配慮し、利用者は限界を全て通訳のせいにしたり、通訳が始まるまで成り行き任せに
しないで、よりよい社会参加になるよう、自分でも努力することが望ましいと思います。


他に、次のようなテーマで考えていることもあるのですが、それはまた後に
述べたいと思います。

【C.健聴者の通訳の事例から】
これは、利用者が聴覚障害者ではなく健聴者で、外国語通訳の例からなのですが、
通訳というものは何なのか、考えさせられるものなので、参考として書いてみたいと
思いました。


【D.長瀬氏の講演から】(国連・障害者権利条約の考え方から)
通訳の総務性、費用負担のあり方について。
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by bunbun6610 | 2011-08-01 21:38 | 情報保障(テレビ字幕)
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ある聴覚障害者から見た世界


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